決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれる
決裁権限規程の1行は、ワークフローシステムのどこに反映されるのか
決裁権限規程の改定通知が回ってきて、添付されたPDFを開く。決裁権限基準表の1行だけが変わり、固定資産の取得が部長決裁から本部長決裁+経理部長の合議になっていた。改定日は来月1日で、ほかの行に変更はない。
この1行を反映しようとすると、システムの1か所には収まりません。様式・分岐条件・承認者の指定という3か所と、設定画面のない4つめに分かれます。
こうなるのは、規程の1行とシステムの1設定が一対一で対応していないためです。規程は「誰が決めていいか」を書いた文書で、ワークフローは「どう回すか」を書いた設定です。同じ会社の同じ決裁を、別の言葉で書いています。規程を書く側も、システムを触る側も、それぞれの言葉で正しく書いています。噛み合わないのは、あいだにある変換の作業が、どちらの担当表にも載っていないためです。
本記事では、決裁権限基準表の1行がシステムのどこに分かれて入るのかを4つに分けて整理します。規程そのものの書き方や雛形は扱いません。受け取った1行を、システムのどこに置き直すかだけを扱います。
決裁権限規程の1行は、システムのどこに書かれるのですか
様式・分岐条件・承認者の指定という3か所と、決裁の記録という4つめに分かれます。前の3つには設定画面があり担当も別々ですが、4つめには設定画面がなく、どこに残すかを自分で決めることになります。
決裁権限規程とは、案件の種類と金額の組み合わせごとに、決裁できる役職を定めた社内規程です。多くの企業では、条文と、案件×金額のマトリクス表(決裁権限基準表)の2部構成になっています。
規程の側も、1つのファイルで完結していないことがあります。条文はWordで、基準表はExcelかPDF。行の見出しはセルが結合され、記号の凡例は表の下ではなく別ページにある、といった状態です。
表の中身は記号で書かれていることが多く、◎や○や△が決裁・承認・合議のどれを指すかは凡例側にあります。同じ記号でも、複数人を並列に回すのか順番に回すのかまでは、表に書かれていません。
本記事では、次の1件を通し例として使います。営業部から上がってきたノートPC10台の購入稟議で、稟議書に書かれた金額は400万円です。この400万円が1台あたりの取得価額なのか稟議1件の合計なのかは表の側には書かれていないため、ここでは合計で見る決めごとがある企業として進めます。
改定後の表では「固定資産の取得/300万円超〜1,000万円以下」の行に当たり、本部長が決裁、経理部長が合議と書かれています。この1件を通すために、設定は次の4か所に散ります。
分かれる先 | 決めること | 設定画面 |
|---|---|---|
様式 | この案件を、どの申請書で出すか(購入伺いか、固定資産取得申請か) | ある |
分岐条件 | 300万円超と1,000万円以下を、どの入力値で判定するか | ある |
承認者の指定 | 本部長と経理部長を、役職で指すのか個人で指すのか | ある |
決裁の記録 | どの版の規程に拠り、誰がどの役職で下したのかをどこに残すか | ない |
表を眺めていると1行に見えるのに、システムでは3画面に散り、4つめは置き場所から考えることになります。この落差が、改定作業の手間を読みにくくしています。
規程を1行変えると、どこまで直すことになりますか
改定の種類によって、波及する場所の数が違います。金額の区切りが動いただけなら1か所ですが、案件の種類が増えると4か所すべてに触ることになります。
改定の中身は、おおむね次の6つに分かれます。
改定の種類 | 例 | 直す場所 |
|---|---|---|
金額の区切りが動く | 300万円超 → 500万円超 | 分岐条件 |
決裁者の役職が変わる | 部長決裁 → 本部長決裁 | 承認者の指定 |
記号の意味づけが変わる | ○が承認から合議に | 承認者の指定、分岐条件 |
合議の相手が増える | 経理部長の合議を追加 | 承認者の指定、分岐条件 |
後閲の相手が増える | 内部監査部門の後閲を追加 | 承認者の指定、決裁の記録 |
案件の種類が増える | 新しい契約形態の行を新設 | 4か所すべて |
金額の区切りだけが動く改定は、いちばん軽いものです。分岐の条件を書き換えれば済み、様式も承認者もそのまま使えます。
合議の追加で分岐条件まで触ることになるのは、合議が一定額を超えた案件にだけ付くためです。全件に付くなら承認ステップを1つ足すだけですが、金額の条件付きなら分岐の側も直すことになります。
後閲は、少し性格が違います。合議は決裁の前に置かれ、否となれば決裁が止まります。後閲は決裁が成立した後に回るため、未了でも決裁の効力は生じています。したがって後閲を足すときに決めるのは、承認者だけではありません。どの時点を決裁済みとして扱うか、後閲が未了の案件をどこで見えるようにするか。決裁の記録の側にも触ります。
重いのは、いちばん下の行です。新しい案件の種類が増えると、様式を作り、分岐を組み、承認者を割り当て、そのうえで既存の様式のどれとも重ならないことを確かめる必要が出てきます。規程の表では1行の追加でも、システムではひとつの業務の新設です。
改定通知に書かれた行数は、作業量を表していません。 どの列が動いたかで見ると、量の見積もりが立てやすくなります。表の1行だけという説明を受けて着手し、あとから様式ごと作ることになる、という食い違いは、行数だけで工数を見積もったときに起きます。
なお、規程の改定と組織の変更は、別の周期で別々にやってきます。組織側の変更が経路に与える影響は、承認経路のメンテが終わらない理由で扱っています。
設定で直せるズレと、事後に作れないズレは何が違いますか
設定の3か所は施行日に合わせて直せば元に戻せますが、事後に作れないものが2つあります。施行日をまたいだ案件でどちらの版を当てて通したのかという判断の痕跡と、決裁した人がその時点で就いていた所属と役職です。
様式・分岐条件・承認者の指定は、手間はかかっても、やり直しがききます。
通し例のノートPC10台の稟議が、改定をまたいだとします。起案が今月末で、決裁が来月頭。部長決裁の版で起案され、本部長決裁の版に変わった日をまたぐ形です。
このとき、起案日の版で通すのか、決裁日の版で通すのか。正しいのは規程の側が決めることですが、またぎの案件だけは、改定履歴と決裁日を後から突き合わせても一意に決まりません。
半年後の監査で問われるのは「この400万円は誰の決裁か」ではありません。承認履歴に名前と日時が残っているため、そこは答えられます。答えにくいのは「当時の規程では、それが正しい決裁者だったか」のほうです。
決裁の正しさを後から再現するには、次の3つが必要になります。
- 決裁の時点で、規程のどの版が有効だったか
- その版で、この金額と案件はどの行に当たったか
- 決裁した人が、その時点でその行の役職に就いていたか
1と2は、規程側で改定履歴(版数と施行日)が管理されていれば、決裁日から引き直せます。逆に、改定履歴が版数だけで施行日を持っていない場合は引けません。規程を持つ部門に確認しておく価値があります。
3は、設定でも台帳でもなく、4つめの決裁の記録のうち、製品がどこまで保持するかに依る部分です。人事異動で所属や役職が上書きされると復元できません。決裁当時の所属と役職がそのまま残る製品かどうかで、前提が変わります。この点は機能一覧には載っていないことが多く、ワークフローシステムを選ぶ前に押さえておきたいポイント。比較表の○が揃ってしまう4つの領域でも触れています。
またぎの案件でどちらの版を当てたかについては、改定の版数・施行日と、またぎで適用した基準を管理台帳に残し、稟議番号と突き合わせられる形にする方法があります。
増えた行は、すべてシステムに写すべきですか
全部を写す前提を、まず外します。写すかどうかは規程上の重要度ではなく、その行が判定できる形で書かれているかどうかで分かれます。
この判断が必要になるのは、案件の種類が増える改定のときです。様式から作ることになるため、そもそも作るのかを先に決めることになります。
システムが自動で判定できるのは、入力値から機械的に決まる行だけです。金額、申請者の所属、案件の種類、契約期間。ここまでは申請フォームに入っている情報で分岐が組めます。
判定できないのは、条文側に書かれている条件のほうです。「重要性が高いと認められる案件については」「その他、社長が必要と認めた事項」。この種の但し書きは、人が読んで当てはめる前提で書かれています。無理に写そうとすると、申請者に「重要かどうか」を選ばせる項目が増え、そのチェックが入った申請を誰がいつ数えるのかという別の運用が発生します。
線引きは、次の3つになります。
- 入力値から一意に決まる行:写す。分岐条件として組む
- 人の判断が入る行:写さない。判断が入ったことを記録に残す形にする
- 例外運用の行:発動の条件は写さない。発動したことと、その後の処理が終わったかを記録に残す
3つめは、緊急時の代理決裁と後閲が典型です。「緊急を要する場合は上位者の事後承認をもって足りる」という条文は、緊急かどうかの判定を機械に任せられません。ただし、緊急扱いで通ったことと、後閲が完了したかどうかは記録に残せます。
写さないという判断と、抽出できる状態を作るところまでが一組です。 例外を通せる仕組みだけがあって、通した件数が誰にも分からない状態は、規程の側から見ると写していないのと変わりません。
承認者を役職で指すか個人で指すかも、この線引きと地続きです。役職で指せば規程の表とそのまま並びますが、兼務や欠員で承認者が空くことがあります。個人で指せば確実に回る代わりに、規程が改定されても設定側は気づけません。
改定日の朝、ノートPC10台の稟議が起票されるとします。様式は固定資産取得申請で合っている。金額は400万円なので、300万円超の分岐に乗る。承認者には本部長が入り、経理部長の合議が続く。ここまでは設定が動かします。残るのは、この1件が新しい版で通ったことをどこに残すか、そして数年後にこの稟議を開いた誰かが当時の本部長を追えるかです。
1行の改定が、4か所を通って1件の決裁になります。逆に、改定通知を開いたときは、この4か所を後ろから順に見に行くことになります。
改定通知を受け取ったら、誰に何を確認しますか
聞く相手で分けて並べておくと、往復が減ります。
規程を持つ部門に聞くこと
- 施行日はいつか。施行日をまたぐ申請は、起案日と決裁日のどちらの版で通すのか
- 動いたのは金額の区切りか、決裁者の役職か、合議・後閲の相手か、案件の種類そのものか
- 記号の凡例が変わっていないか(決裁・承認・合議・後閲の意味づけ)
- 改定履歴に施行日が入っているか。改定前の版を、いつまで参照できる状態にしておく必要があるか
- 例外を通した件数を、誰が、どの頻度で見るのか
システム側で決めること
- 施行日に手で切り替えるのか、事前に登録して施行日に切り替わる形にするのか
- 施行日をまたいで承認中の申請を、そのまま流すのか差し戻すのか
- 分岐の判定に使う入力値が、フォームの項目として存在しているか
- 承認者を役職で指すか個人で指すか。兼務者が決裁者に当たる場合の扱い
- またぎで適用した基準を、どこに残すか
金額の定義も、聞いておくと後戻りが減ります。税抜か税込か、単価か総額か、契約期間中の合計か。表には「300万円」とだけ書かれていて、どれを指すかは条文の別の条にあることが多いためです。通し例のノートPC10台の400万円も、どの基準で表の行を引いた金額なのかは、条文を開くまで決まりません。
なお、規程の何行目まで写すべきかは、システム側だけでは決められません。写す作業にどれだけかかるか、この条件は分岐に組めるか、というところまでは判断できますが、統制をどこまで機械に任せるかは規程を持つ部門の判断になります。この線引きは、社内で持ち帰りになることが多い部分です。
まとめ
決裁権限規程の1行は、システムでは様式・分岐条件・承認者の指定という設定3か所と、置き場所から決める決裁の記録に分かれます。改定の重さは行数ではなく、どの列が動いたかで決まります。
設定の3か所は後から直せます。事後に作れないのは、またぎの案件でどちらの版を当てたかと、決裁した人のその時点の所属と役職です。どちらも4つめの決裁の記録に入ります。版と行そのものは、規程側の改定履歴に施行日が入っていれば引き直せます。
写す範囲を決めるときは、その行が判定できる形で書かれているかを見ます。金額や所属で一意に決まる行は写せます。条文側の但し書きは写さないほうが、かえって運用が保ちます。
規程が細かすぎるわけでも、システムが足りないわけでもありません。別の目的で書かれた2つの文書を並べているため、境目に変換の作業が残るだけのことです。
よくある質問
決裁権限規程を、ワークフローに載せやすい書き方に改めてもらうのは筋違いですか
企業によって分かれます。金額の定義や案件の種類の切り方のように、解釈が揺れて判定できない部分は、規程側で明確にしてもらう価値があります。一方で「重要と認められる案件」のような幅を持たせた書き方は、判断の余地を残すために置かれていることがあります。判定できないから直してほしいのか、判断の余地を狭めたいのか、どちらの依頼なのかを分けて持っていくと話が進みやすくなります。
施行日をまたいで承認中の申請は、差し戻したほうがいいですか
起案日の版で通すと決めているなら、そのまま流して問題ありません。決裁日の版で通す決めごとなら、経路が変わるため差し戻しか作り直しが必要になります。どちらの基準かは規程の側で決まるため、施行日が分かった時点で先に確認しておくと、当日の判断が要らなくなります。件数が多い場合は、施行日の前後で起票を止める期間を置く方法もあります。
決裁権限基準表の記号(◎・○・△)は、そのままシステムに設定できますか
記号の意味づけを先に確定させる必要があります。◎が決裁、○が承認、△が合議という凡例は企業ごとに違い、同じ記号でも並列に回すのか順番に回すのかまでは表に書かれていないことが多いためです。凡例の解釈を規程を持つ部門と揃えてから、承認ステップに落とすことになります。