PCを持たない社員の申請、手段は申請の種類で分ける
PCを持たない社員の申請は、どの手段に載せればいいのか
PCを持たない現場社員の申請をワークフローに載せる計画が進むと、休憩室にPCを1台置けば工場の全員が申請できる、という案が現場から出ることがあります。候補に挙がるのは、共有PCに共有アカウントでログインしておくか、事務担当が代わりに入力するか、一人ずつにアカウントを配るかです。
どの手段でも、申請を出すことはできます。差が出るのは出したあとで、承認が誰に回るか、差し戻しが誰に返るか、一覧で誰の申請が見えるかです。
スマホ対応の製品を選べば片付く、という見方もあります。ただし、スマホが解くのは画面を開く入口の問題だけです。
本記事では、PCを持たない社員の申請手段を、承認経路・差し戻し・見える範囲・本人の記録の4点で比べます。どの申請をどの手段に載せるかを決めるときの、たたき台として使ってください。
PCを持たない社員の申請手段は、何通りありますか
4通りです。違いは申請の入口ではなく、承認と差し戻しが誰の名前を起点に動くかにあります。
本記事では、次の1件を通し例として使います。第2工場の製造ラインで働く社員が、祖母の葬儀のあとに弔慰金の申請を出す。規程に沿って、会葬礼状の写しを添付します。本人はPCを持っていません。いまは紙の申請書を班長に渡し、工場の事務担当を経由して本社の総務に届いています。
手段 | 申請者欄に残る名前 | 承認経路が決まる基準 | 差し戻しが返る先 | 一覧で見える範囲 |
|---|---|---|---|---|
共有アカウント | 「第2工場共用」などの共有名 | 共有アカウントの所属 | 共有アカウント | 同じアカウントで出された全員の申請 |
代行入力 | 事務担当(本人名はフォームの欄に書くだけ) | 事務担当の所属 | 事務担当 | 事務担当が入力した申請 |
代理申請の機能 | 本人(起票した代理人も記録される) | 本人の所属 | 本人。本人が通知を受け取れなければ実質は代理人 | 本人の申請 |
個人アカウント | 本人 | 本人の所属 | 本人 | 本人の申請 |
多くのワークフローシステムでは、承認経路は申請者の所属と役職から決まります。共有アカウントで出すと、ラインや班が違っても全員の申請が共有アカウントの所属の上長へ流れます。代行入力では事務担当の上長に回り、本人の班長や課長には回りません。
差し戻しも同じ起点で動きます。会葬礼状の写真がぼやけていて、総務が撮り直しを求めたとします。個人アカウントなら差し戻しは本人に届きます。代行入力なら事務担当に届き、事務担当が本人をつかまえに行きます。共有アカウントなら共有アカウントに届き、誰が見るかは決まっていません。
申請の手段を選ぶことは、承認と差し戻しの起点を誰に置くかを選ぶことでもあります。
スマホ対応の製品を選べば足りますか
足りません。スマホが解くのは画面を開く入口だけで、アカウントの発行と通知の届け先は別に決めることになります。
多くのワークフローシステムはスマホから申請も承認もできます。ただし、スマホから開けるかどうかと、本人として申請できるかどうかは別の話です。
本人として申請するには、本人のアカウントが要ります。工場で働く社員には、会社のメールアドレスを持っていない人も少なくありません。メールアドレスをログインIDにする製品では、IDの発行で手が止まります。SSOを使っていれば、IdPの側にも本人のアカウントを作ることになります。
通知も同じです。差し戻しの通知をメールで送る設定なら、メールアドレスのない社員には届きません。
共有アカウントでは、どんな問題が起きますか
設計と運用で軽くできるものと、起きてしまうと戻せないものに分かれます。
軽くできるのは、誰の申請か分からない問題と、承認経路と差し戻しの問題です。
- 誰の申請か:フォームに氏名と社員番号の欄を必須で置けば、承認者が見分けるところまでは届きます
- 承認経路:フォームで所属のラインを選ばせ、その値で承認者を分岐させる設定が要ります。ラインの数だけ分岐が増え、組織が変わるたびに直す場所も増えます
- 差し戻し:共有アカウントを工場の事務担当が毎朝確認し、本人に声をかける運用にすれば回ります
差し戻しには、もう一段の手間が付きます。撮り直した会葬礼状の写真を、共用端末へ移す経路が要るためです。私物のスマホからメールで送るのか、事務担当がスキャンするのか。私物のスマホから会社のアドレスへ送ってよいかは、それ自体が規程の話になります。
戻せないのは、見える範囲と本人の記録の2つです。
共有アカウントで弔慰金の申請を出した社員が、自分の申請の状況を確かめようと一覧を開くと、同僚の申請も並んでいます。別の人の弔慰金の申請、通勤手当の変更に書かれた新しい住所、扶養に入れる家族の名前。
申請者が同じアカウントである以上、システムから見ればどれも自分の申請です。閲覧権限の設定では分けられません。紙の時代には、申請書は封筒に入って班長から事務担当へ渡っていました。電子化したことで、かえって見える人が増える形です。見られたという事実は、あとから取り消せません。
もう1つは、本人が自分で申請したという記録です。共有アカウントで出された申請は、本人が入力したのか、隣にいた同僚が代わりに入力したのかを区別できません。弔慰金のように本人に支給される申請で、本人は出していないと言われたとき、確かめる材料はシステムの中にありません。
製品によっては、利用規約でアカウントの共有そのものを認めていないこともあります。共有アカウントを選択肢に入れるなら、選定の段階で確かめておく項目です。
代理申請で回すと、事務担当に何が残りますか
代理申請の機能を使えば、承認経路のずれは消えます。ただし、差し戻しの往復と、本人の意思を示す紙の保管は、代行入力でも代理申請の機能でも事務担当が引き受けることになります。
代理申請とは、本来の申請者に代わって、別の人が申請を起票して提出することです。ワークフローの実務では、この言葉で2つの形が呼ばれています。
- 代行入力:事務担当が自分のアカウントで起票し、本人の名前はフォームの欄に書く。本人はユーザーとして登録されていない
- 代理申請の機能:本人をユーザーとして登録しておき、事務担当が本人に代わって起票する。申請者は本人で、起票した代理人も記録に残る
代行入力は、準備がいちばん軽い形です。そのかわり承認経路は事務担当の所属から決まるため、共有アカウントと同じく、フォームの値で承認者を分岐させる設定が要ります。
代理申請の機能なら、承認経路は本人の所属から決まり、申請者欄にも本人の名前が載ります。2つの形の違いは、この2点に絞られます。代理される側の本人を登録する分が課金の対象になるかは、ワークフローシステムの利用人数は、4つの層に分けて数えるで整理した第4層の論点です。
差し戻しは、どちらの形でも事務担当を通ります。代理申請の機能で差し戻しが本人に届く設定でも、本人がPCを持たず通知を受け取る手段もなければ、撮り直した礼状を受け取って再申請するのは事務担当です。理由が本人に届くまでに一段挟まり、何を直せばよいかが薄まることもあります。差し戻しの理由がうまく伝わらない構造は、稟議の差し戻しが減らないのは、承認する側の判断基準が申請画面に載っていないからでも扱いました。
本人の意思を示す記録も、どちらの形でも紙の申請書の側にあります。システムの中にあるのは、事務担当が入力した記録です。紙を保管するのか、スキャンして添付するのかを決めておかないと、電子化したのに紙の保管が続きます。
工場の事務担当が1人なら、その人が休んだ日は申請が止まります。ただし、代理人を2人置く、紙はスキャンして添付欄に入れる、と決めれば軽くできる弱点です。見える範囲も、紙で回していたころと大きくは変わりません。
個人アカウントを配るときは、何を決めますか
IDと通知の届け先と端末の3つです。個人アカウントなら、承認も差し戻しも本人を起点に動き、見えるのは本人の申請だけになります。
決めること | 選択肢 | 引き受けるもの |
|---|---|---|
ID | 会社のメールアドレス、社員番号ベースのID | メールアドレスのない社員にIDを発行できるか、製品とIdPの両方で確かめる |
通知の届け先 | メール、チャット、モバイルアプリの通知 | 差し戻しに気づける手段が本人の手元にあるか |
端末 | 会社が貸与するスマホ、私物のスマホ、共用端末で都度ログイン | 共用端末ではログアウト忘れ、私物のスマホでは業務利用の規程 |
スマホで出せるなら、会葬礼状はその場で撮って添付できます。共有アカウントで写真の移し方に困った問題は、ここで消えます。
共用端末で都度ログインする形には注意が要ります。前の人がログアウトし忘れると、次の人は前の人として申請を出せてしまいます。共有アカウントと同じ問題が形を変えて戻ってくるため、一定時間で自動的にログアウトさせる設定があるかを確かめておきます。
私物のスマホを使ってもらう場合は、社外のネットワークからつながることになり、アクセス制限との兼ね合いも出てきます。モバイルからの接続をどこまで認めるかは、ワークフローのIPアドレス制限は1つの設定では足りないで入口ごとに整理しています。
どの申請を、どの手段に載せますか
全員を1つの手段にそろえる必要はありません。申請の種類ごとに、重い順に3つの問いで手段を分けられます。
- その申請に、同僚に見られたくない情報が載るか
- 本人に金銭が支給される申請か。本人が操作した記録を求められる申請か
- 差し戻しの往復が多いか
1と2のどちらかに当たれば、共有アカウントは外れます。後から取り戻せない問題に直結するためです。3は、個人アカウントで本人に直接差し戻しを受けてもらうか、代理で事務担当が往復を引き受けるかを決める補助の軸です。
申請の例 | 見られたくない情報 | 金銭の支給・本人の記録 | 差し戻しの往復 | 向く手段 |
|---|---|---|---|---|
作業服・安全靴の交換 | 載らない | 現物の貸与で金銭の支給はない | ほとんどない | 共有アカウントでも回る。誰の申請かは氏名欄で見分ける |
事故報告・ヒヤリハット | 状況による | 本人の記述が要る | 追記の依頼が多い | 個人アカウント。代理で出すなら本人の記述を紙で残す |
弔慰金・通勤手当・扶養 | 載る | 本人に支給される | 添付の不備で起きる | 個人アカウント。代理で出すなら紙の原本かスキャンの保管が要る |
同じ第2工場の社員でも、安全靴の交換なら休憩室の共用端末から出してもらって困ることはほとんどありません。サイズと品番を書けば済み、差し戻されることもまれです。
弔慰金の申請は違います。亡くなった家族の続柄と氏名が載り、本人に支給されます。問い1と2の両方に当たるため、共有アカウントには載せられません。
共有アカウントに載せてよい申請は、見られて困る情報が載らず、本人の記録も求められないものに限られます。
個人アカウントと代理のどちらに寄せるかは、申請の件数と事務担当の手の空き具合で分かれます。弔慰金や扶養の変更は、1人の社員にとっては数年に一度の申請です。本人をユーザーとして登録はしても、スマホと通知の手段までは用意せず、代理申請の機能で事務担当が出す。そのほうが合う企業もあります。
手段を決める前に、誰に何を聞きますか
聞く相手は3つに分かれます。
総務・人事に聞くこと
- 現場の社員が出す申請のうち、家族や住所、口座が載るものはどれか
- 申請者本人が操作した記録を、規程や監査の上で求められている申請はあるか
工場長・現場の事務担当に聞くこと
- いま紙の申請書を受け取って本社に回しているのは誰か。その人が休んだ日はどうしているか
- 差し戻しがあったとき、本人に伝わるまでにどのくらいかかっているか
- 会社のメールアドレスやチャットのアカウントを持っていない社員はどのくらいいるか
ベンダーに聞くこと
- 共有アカウントでの利用は、利用規約で認められているか
- 代理申請の機能で、申請者と代理人がそれぞれどう記録されるか。差し戻しと通知は本人と代理人のどちらに届くか
- フォームの入力値で承認者を分岐させられるか
- メールアドレスのない社員にIDを発行できるか。差し戻しの通知はメール以外で届けられるか
- 共用端末で、一定時間で自動的にログアウトさせられるか
なお、製品の仕様として確かめられるのは6から10です。私物のスマホを業務に使わせるか、本人の操作記録をどこまで求めるかは、規程を持つ総務・人事と情報セキュリティの担当でしか決められません。
まとめ
PCを持たない社員の申請手段は、申請を出せるかどうかでは差がつきません。差がつくのは、出したあとです。
- 手段は共有アカウント、代行入力、代理申請の機能、個人アカウントの4通り。違いは承認経路が決まる基準、差し戻しの返り先、一覧で見える範囲
- スマホ対応が解くのは入口だけ。IDの発行と通知の届け先は別に決める
- 共有アカウントでは、誰の申請か・承認経路・差し戻しは設計と運用で軽くできる。他人の申請が見える問題と、本人が出した記録がない問題は後から戻せない
- 代理申請の機能が解くのは、承認経路の起点と申請者欄の2点。差し戻しの往復と紙の保管は、代行入力と同じく事務担当が引き受ける
- 申請の種類ごとに、見られたくない情報と本人の記録で共有アカウントを外し、差し戻しの往復で個人か代理かを選べる
よくある質問
共有アカウントでの申請は、内部統制上の問題になりますか
申請の種類によります。備品の交換のように本人に金銭が支給されない申請なら、フォームの氏名欄で足りるとする企業もあります。弔慰金や手当のように本人に支給される申請で、本人が申請した記録を求める規程や監査の方針があるなら、共有アカウントでは記録が残りません。どの申請で本人の記録を求めるかは、規程を持つ総務・人事の判断で分かれます。
代理申請と代理承認は、何が違いますか
代理申請は申請を出す側の代わり、代理承認は承認する側の代わりです。代理承認は承認者の不在に備える仕組みで、PCを持たない社員の申請手段とは別の論点になります。同じ製品の中でも設定する場所が分かれていることが多いため、分けて確かめます。
PCを持たない社員にも、ライセンスは必要ですか
手段によります。個人アカウントなら、その社員の分のライセンスが要ります。代理申請の機能では本人のユーザー登録が前提になり、その登録が課金の対象かどうかは製品ごとに異なります。代行入力と共有アカウントは本人の登録が要りませんが、共有アカウントは利用規約で認められているかを先に確かめることになります。