電子契約とワークフローの連携、相手方から届く契約書の扱い
電子契約とワークフローを連携しても、相手方から届く契約書が手作業で残るのはなぜか
電子契約とワークフローを連携したのに、相手方から届く契約書だけは手作業のまま残る。
最終承認が下りると、契約書が相手方へ自動で送られ、締結済みのファイルが申請に戻ってくる。その流れに乗るのは、自社から送る契約です。相手方の電子契約サービスから届く署名依頼は、担当者がメールで受け取り、承認済みの申請と見比べてから処理しています。法務が直した条項が入っているかを確かめるために、署名の前で手が止まります。
連携の仕組みは、自社が契約書を送る形を前提に組み立てられています。一方で、大手の取引先との契約では、相手方のサービスから送られてくることが多くなります。どちらの会社も、自社の手順どおりに動いているだけです。
連携の対象を広げれば片付くかというと、そうはなりません。相手方のサービスで送られた契約書は、自社のワークフローから操作できないためです。
本記事では、契約書の照合を2つに分け、締結の手段ごとに、どちらの照合が仕組みに任せられて、どちらが人に残るかを整理します。
電子契約とワークフローの連携で、何が自動になりますか
自動になるのは、承認した契約書をそのまま相手方へ送る部分と、締結済みのファイルを申請に戻す部分です。どちらも、自社が電子で送る契約でしか働きません。相手方が送る契約や紙の契約では、同じ役割を誰かが手で担っています。
電子契約とワークフローの連携とは、ワークフローで承認した契約書を電子契約サービスへ渡して送信し、締結済みのファイルを申請に戻す仕組みです。
契約締結申請とは、相手方と合意した契約書の最終版について、締結の権限を持つ人の承認を得て、押印または電子署名へ回すための申請です。取引そのものを進めてよいかを決める稟議とは、別の書式にしている企業もあります。稟議で締結まで決裁する規程なら、稟議の承認がこの役割を兼ねます。稟議と後続の申請をどこで区切るかは、購買ワークフローをどこで区切るか。稟議・発注・検収・支払で扱いました。
本記事では、次の1件を通し例として使います。営業部が新しい外注先と結ぶ業務委託契約で、月額60万円の12か月、総額720万円。外注の稟議は先月決裁が済んでいます。契約書は外注先のひな形で、法務の審査により損害賠償の上限と再委託の条項の2か所を直してもらいました。最終版は、外注先が使っている電子契約サービスから送られてきます。
この1件は、自社の連携の流れには乗りません。最終承認を下ろしても、自社のサービスから送るものが何もないためです。
契約書の照合は、何回ありますか
締結までに2回あります。仕組みで保証できるのは、そのうち1つだけです。
- 合意した版と承認する版の照合。法務の審査と相手方とのやり取りを経て合意した内容が、申請に添付した版に入っているか
- 承認した版と署名する版の照合。権限者が承認した版と、実際に押印や署名をする版が同じか
連携が仕組みで保証できるのは、2つ目だけです。承認された添付ファイルをそのまま送るため、承認した版と署名される版が食い違うことはありません。
1つ目は、どの締結の手段でも人に残ります。合意の経緯を知っているのは、相手方と条項をやり取りした担当者と法務だけだからです。権限者は、修正の経緯までは追っていません。
締結の手段は、契約書を送るのが自社か相手方かと、紙か電子かの組み合わせで4つに分かれます。ここで見るのは、誰のひな形かではなく、誰が送るかです。相手方のひな形でも、合意した最終版を自社のサービスから送ることはできます。
1つ目の照合は、どの手段でも申請者が申請の前に担います。手段によって変わるのは、2つ目の照合と、締結済みの版の戻り方です。
締結の手段 | 2つ目の照合(承認版と署名版) | 締結済みの版が申請に戻る経路 |
|---|---|---|
自社が電子で送る | 仕組みが担う | 連携で戻せる |
相手方が電子で送る | 承認と署名依頼の順番で変わる | 担当者がダウンロードして添付する |
自社が紙で送る | 押印の窓口が記載事項を、担当者が条項を | 返送された書面を誰かがスキャンする |
相手方が紙で送る | 押印の窓口が記載事項を、担当者が条項を | 誰かがスキャンする |
紙の契約では、押印の窓口が2つ目の照合の一部を担っています。印章を管理する部門が見るのは、多くの場合、相手方・件名・金額・日付といった申請の記載事項です。条項の本文までは見ないため、条項の照合は担当者に残ります。
照合の置き場所がいちばん曖昧になりやすいのは、相手方が電子で送る契約です。押印の窓口を通らず、届いたメールから署名まで進めてしまえるためです。
相手方から届く電子契約は、誰が見比べますか
署名のボタンを押す人ではなく、相手方と合意した版を手元に持っている担当者です。署名する人と、合意の経緯を知っている人が、別の人になりやすいためです。
通し例なら、外注先から届いたPDFに、法務が直した2か所が入っているかを確かめるのは営業の担当者です。損害賠償の上限と再委託の条項を、最終版のWordと突き合わせます。
全文が一致するかを見る作業ではありません。相手方から届くPDFには、契約日や住所の欄、別紙が加わっていることがよくあります。実際には、合意した版との差分を確かめる作業になります。
国内の電子契約サービスには、メールアドレスで本人確認をする立会人型と、電子証明書を使う当事者型があります。立会人型では、決裁権限を持つ人本人が署名のボタンを押さない運用も取られています。社内で権限者の承認を得たうえで、担当者が使者として送受信する形です。当事者型では、権限者本人の電子証明書で署名するため、使者として送受信する運用とは前提が変わります。相手方送信の契約で、どちらの型になるかを決めるのは、相手方が選んだサービスと、その送信の設定です。
立会人型で使者が送受信する場合、権限者が承認したことを示す証跡は、署名の記録ではなくワークフローの承認履歴の側に残ります。署名の記録に残るのは、相手方が受信者として指定したメールアドレスです。そうなると、承認履歴がどの契約書についての承認だったかと、受信者が誰だったかが問われます。
受信者の扱いには、もう1つ注意が要ります。相手方から届いた署名依頼を、社内で署名する予定の人へメールで転送すると、転送されたメールからの署名を認めないサービスがあります。署名のやり直しになるため、相手方に送信をお願いするときは、受信者にする人のメールアドレスを先に伝えておきます。転送や受信者の変更をどう扱うかは、サービスごとに違います。
相手方送信の契約で、締結申請の側に置いておけるものは次のとおりです。
- 受信者にする人の氏名とメールアドレスを、申請の項目として持つ
- 合意した最終版と、相手方から届いたPDFを、別々の欄に添付する
- 差分を確かめた人と、その結果を、承認のコメントか専用の項目に残す
添付欄を分けるかどうかは、ワークフローの添付ファイルは、欄をどこまで分けるかで整理した考え方がそのまま使えます。
承認と署名依頼は、どちらが先でもよいですか
どちらを先にしても締結はできます。ただし、2つの照合のうちどちらが承認の外に出るかが変わります。
順番 | 流れ | 引き受けるもの |
|---|---|---|
承認が先 | 合意した最終版で承認を取り、そのあと相手方に送信をお願いする | 承認したのはWordの版で、締結したのはPDFの版になる。署名の前に担当者が差分を確かめ、その記録を別に残す |
署名依頼が先 | 相手方から届いたPDFを添付して承認を取り、そのあと署名する | 承認が終わるまで署名依頼を待たせる。有効期限を設けているサービスでは、期限内に承認を終える必要がある |
承認を先にすると、2つ目の照合が承認の外に出ます。署名依頼を先にすると、2つ目の照合は要らなくなり、1つ目の照合が届いたPDFとの差分確認に変わります。
通し例の業務委託契約なら、届いたPDFを添付して締結申請を出せば、事業部長が見るファイルと署名されるファイルは同じになります。ただし、事業部長は法務が直した2か所の経緯を知りません。差分を確かめるのは、申請を出す前の営業の担当者です。その結果が申請に書かれていれば、事業部長はそれを見て承認できます。
その代わり、事業部長の承認が止まると、外注先から見れば送った署名依頼が返ってこない状態が続きます。月初から作業を始めたい契約なら、承認を待つあいだに開始日が近づいてきます。
承認を先に取る形は、相手方の送信を待たずに社内の手続きを済ませられます。
どちらを標準にするかは、相手方送信の契約がどのくらいの頻度で来るかと、承認にかかる日数の見通しで分かれます。契約の種類ごとに順番を変えている企業もあります。
署名の前後で、食い違いの直し方はどう変わりますか
署名の前に見つかれば、ほとんどは送り直しで済みます。双方の署名が済んでから、合意した版と違う版に署名していたと分かった場合は、相手方の同意なしには直せません。
起きること | 気づく時点 | 直し方 | 戻せるか |
|---|---|---|---|
受信者のメールアドレスの誤り | 署名依頼が届かないとき | 相手方に送り直してもらう | 戻せる |
相手方の差し戻しや取り消し | 相手方が修正を求めたとき | 修正版で締結申請を出し直す | 戻せる |
署名依頼の期限切れ | 承認が長引いたとき | 相手方に送り直してもらう | 戻せる |
署名した版は合意どおりで、社内の承認だけが古い版だった | 締結のあと | 社内で事後の承認を取り、記録を補う | 社内で直せる |
合意した版と違う版に双方が署名した | 締結のあと | 相手方と変更契約や覚書を結ぶか、合意解除して締結し直す | 相手方の同意が要る |
承認履歴と締結した版が結びつかない | 監査や紛争のとき | あとから差分の確認記録を作るしかない | 締結時点の確認記録は戻せない |
上の3つは、送り直しの手順を決めておけば対処できます。申請の項目や運用で軽くできる弱点です。
4つ目は、社内の手続きで直せます。ただし規程どおりの順番を踏んでいない以上、事後の承認をどう扱うかは規程を持つ部門の判断になります。
5つ目は相手方の同意が要り、6つ目は誰の同意があっても締結の時点には戻れません。4つ目と6つ目は、どちらも承認と締結版のずれを記録で補う話です。違いは気づく時点で、気づくのが遅いほど、補った記録の証跡としての重みが下がります。6つ目は締結した時点では誰も困っていないため、問題が表に出るのは後になってからです。監査で権限の証跡を問われたときの論点は、ワークフローの監査対応。閲覧権限では答えられない質問でも触れています。
締結済みの版をどこに残すかも、同じ線の上にあります。相手方送信の契約では、締結済みのPDFが残るのは相手方が契約しているサービスです。相手方の契約や保存期間に左右され、自社で保存要件を満たしているかを確かめにくいため、自社の保存先に取り込んでおくのが確実です。
電子でやり取りした契約書は電子帳簿保存法の電子取引にあたり、検索や真実性などの保存要件があります。自社の保存先に取り込んで締結申請と結びつけておけば、承認と締結版をどちらからでも辿れる状態になります。
まとめ
電子契約とワークフローの連携で、承認した版と署名される版の一致を仕組みで保てるのは、自社が電子で送る契約だけです。
- 契約締結申請とは、合意した最終版について権限者の承認を得て、押印か電子署名へ回すための申請
- 照合は2つある。合意版と承認版の照合はどの手段でも人に残り、承認版と署名版の照合だけが仕組みに任せられる
- 締結の手段は、どちらが送るかと紙か電子かで4つに分かれる。見るのは誰のひな形かではなく、誰が送るか
- 相手方送信の電子契約では、差分を確かめるのは合意の経緯を知っている担当者。立会人型で使者が送受信するなら、承認履歴が権限の証跡になる
- 承認と署名依頼の順番で、承認の外に出る照合が変わる。どちらを先にしても引き受けるものがある
- 署名前の食い違いは送り直しで済む。合意と違う版に双方が署名したあとは、相手方の同意なしには直せない
よくある質問
相手方から届く電子契約も、連携で自動にできますか
送信の部分は自動にできません。相手方のサービスで送られた契約書は、自社のワークフローから操作できないためです。2つ目の照合は、承認と署名依頼の順番で担い手が決まります。締結済みの版は、担当者が手で申請に添付します。
電子契約の署名は、決裁権限者本人が押さなければいけませんか
立会人型の電子契約では、本人が押す運用と、権限者の承認を得て担当者が使者として送受信する運用の両方があります。後者では、権限の証跡が署名の記録ではなく社内の承認履歴に残ります。どちらを取るかは、社内規程で誰が送受信するかをどう定めているかで分かれます。
締結済みの電子契約は、ワークフローに残しておけば足りますか
自社が管理する保存先で電子帳簿保存法の保存要件を満たせるなら、置き場所はワークフローでも、自社で契約している電子契約サービスでも構いません。相手方のサービスにだけ残っている状態は、相手方の契約や保存期間に左右されるため、自社の保存先に取り込んでおくのが確実です。どこに置くにしても、締結申請と締結済みの版を結びつけておくことが前提になります。