紙の申請書を電子化すると、1枚の様式は4つに割れる
紙の申請書の様式は、そのまま電子化できるのか
紙の申請書を電子化する作業で、最初に渡されるのは現行の様式です。設備保全の報告書も、修理の依頼書も、A4の1枚に収まっていて、区分の欄には丸が付いています。1枚の様式が、記入と回覧と保管と提出を同時に担っている状態です。
毎月その報告書を書いている担当者からは、この様式のとおりに作ってほしい、という依頼が出ます。無理のない依頼です。項目を数えて、同じ順番で画面に並べればよく、実際、途中までは並びます。紙の様式が、すでに完成しているためです。何十年か使われてきた様式は、書く人も読む人も迷わない形に落ち着いています。作り直す理由が、社内のどこにも見当たりません。
止まるのは、見た目を写す作業がある一点に来たときです。3つの区分に丸を付ける欄。結合されたセル。用紙の下半分に空いている、何を書いてもいい余白。
本記事では、紙1枚が担っていた役割を4つに分けて並べます。どこを残してどこを作り直すかを選ぶときの、たたき台として使ってください。
紙の申請書の様式は、そのまま電子化できますか
見た目は再現できます。再現できないのは、紙の1枚が同時に担っていた4つの役割を、1つの画面で兼ねることです。
申請書の電子化とは、紙の様式が1枚で担っていた記入・回覧・保管・提出の4つの役割を、別々の仕組みに割り振り直すことです。割り振り先は、入力フォーム・承認経路・申請データ・帳票出力の4つになります。
ここでいう提出は、社外への提出ではなく社内での提示までを含みます。写しを別の会議に持ち込む、現場に掲示する、監査や検査で対照する、といった場面です。
本記事では、次の様式を通し例として使います。工場の設備が止まったときに保全担当が書く報告書。発生区分・担当区分・原因区分の3つがあり、それぞれ該当するものを丸で囲みます。用紙の下半分は処置内容の記入欄で、手で図を描き足す人もいます。月に40枚ほど出て、課長が確認して工場のバインダーに綴じます。月に一度は写しをまとめて安全衛生の会議に持ち込み、発生件数の報告に使っています。
この1枚が、紙のあいだは4つの仕事を同時にしていました。
役割 | 紙での姿 | 紙と電子のずれ |
|---|---|---|
記入 | 手書き。丸を囲み、余白に描き足す | ずれない。どちらも起票のとき |
回覧 | 押印欄。机の上を順に回る | ずれない。どちらも起票のあと |
保管 | 様式ごとのバインダー | 紙は決裁のあと。電子は起票のとき |
提出 | 写しを渡す。掲示する | 紙は随時。電子は出力したとき |
紙が優れていたのは、4つを兼ねていた点ではなく、兼ねていることを誰も意識しなくてよかった点です。 移し替えの作業がありません。
電子化すると、4つは別々の設定画面に置かれます。すると「様式のとおりに」という依頼が、どれに向けられたものなのかを確かめる必要が出てきます。同じ言葉でも、記入する人と、確認する人と、対照する人では、向けられた先が変わります。
電子化すると、4つの役割はどう変わりますか
紙の見た目を代償なしに残せるのは、提出に当たる帳票出力だけです。残る3つは、紙と同じ形にしておく理由が、提出ほど強くありません。
入力フォームは、書く人の手が動く順に並べ直せます。紙は上から下へ書くしかありませんが、画面なら、選んだ内容に応じて次の欄が出てきます。
申請データは、紙にはなかった役割です。紙のバインダーに綴じられるのは、課長の確認が済んだ紙だけです。書きかけでやめた紙も、出したあとに取り下げた紙も、綴じられないまま処分されます。一方、電子では起票した瞬間にデータができます。下書きのまま止まっているもの、途中で取り下げたもの、差し戻されて出し直したものが、すべて残ります。
月に40枚のはずなのに一覧の件数が合わない、という食い違いはここから生まれます。集計の分母をどちらで数えるかは、企業によって変わります。決裁が下りたものだけを数える場合もあれば、取り下げの多さ自体を見たい場合もあります。紙のあいだは選ぶ必要がなかった判断が、電子にすると先に出てきます。
押印欄の数は、そのまま承認の段数になりますか
なりません。押印欄には、決裁の印だけでなく、作成した人の印、受け付けた側の印、目を通した記録としての印が混ざっているためです。
承認の段として残るのは決裁の印だけで、残りは閲覧できる人の設定や、開いた記録という別の形に移ります。
そもそも押印欄の数が実態と合わないこともあります。様式を制定した当時の職制が、その後の組織改編を経ても欄として残っているためです。
区分の丸印を選択肢にすると、何が変わりますか
紙の丸印にあった余白が消えます。消えることが改善になる欄と、記録が薄くなる欄があります。
紙で丸を囲む欄は、書く人にかなりの自由を許しています。
- 2つに丸を付ける
- どれにも丸を付けない
- 2つの区分の境目に丸を置く
- 丸の横に小さく書き足す
この4つが、紙の上では全部できます。そして書いた人には、それぞれ理由があります。どちらとも言えるから両方に丸を付けておく、という操作も成立していました。
選択肢にすると、この操作は消えます。1つを必ず選ぶ形にすれば「どちらとも言えない」が記録から消え、複数選択を許せば集計の分母が揺れます。その他と自由記述を足せば、その他が最多になる欄が出てきます。
どれも間違いではありません。ただし選択肢の粒度を決めた時点で、以後その欄から取り出せる情報の細かさは固定されます。 後から選択肢を足しても、足す前の申請には反映されません。
紙の様式を持ち込むと、選択肢が多すぎることに気づく場面もあります。原因区分が7つ並んでいるのに、実際に丸が付いているのは3つだけ、といった状態です。ここは紙を数えれば分かるところで、ワークフロー移行の様式一覧。その行数は業務の数ではないで扱った様式の棚卸しと同じ作業になります。
Excelの様式は、そのまま帳票テンプレートに使えますか
手を入れることになる場合が多くなります。紙の見た目を守るために足された作り込みが、変数の差し込みと噛み合わないためです。
帳票出力は、Excelのテンプレートの決まったセルに、申請の内容を差し込む仕組みが一般的です。差し込み先のセルが特定できれば動きます。相談が集中しやすいのは、そのセルが特定しにくい状態になっている場合です。
- 見た目を整えるために、広い範囲のセルが結合されている
- 罫線や社判が画像として貼り込まれている
- 崩されないようにシートが保護されている
- 入力を補助するボタンやコントロールが埋め込まれている
どれも、紙の見た目を守るために誰かが足したものです。悪い作りではありません。ただし変数を差し込む側から見ると、差し込み先が定まらない、あるいは出力の途中で予期しない挙動が出る原因になります。
ここは対策できる弱点です。テンプレートを作り直せば済みます。ただし、作り直しの手間は移行計画の見積りから抜けやすいところです。 様式の数は数えられますが、様式の作り込み具合は開いてみないと分かりません。
添付するファイルと帳票として出すファイルの分け方は、ワークフローの添付ファイルは、欄をどこまで分けるかで扱っています。
入力画面は、紙のレイアウトに寄せるべきですか
入力画面の上で紙のレイアウトを再現する方式の製品もあります。判断が分かれるのは、できるかどうかではなく、寄せた場合に何を引き受けるかです。
寄せる理由が立つのは、次のような場面です。
- 紙と電子を並行で回す期間があり、紙を見ながら画面に転記する
- 承認する人が、紙のどの位置に何が書いてあるかで内容を読んでいる
- 監査や検査で、紙の様式と1対1で対照することが決まっている
寄せない理由が立つのは、次の場面です。
- 入力するのが起票する担当者だけで、紙を見ながら書く場面がない
- 現場から手元の端末で入力する
- 選んだ内容によって、以降に出す欄が変わる
そして、どちらを選んでも引き受けるものがあります。
選ぶ形 | 引き受けるもの |
|---|---|
紙のレイアウトに寄せる | 選んだ内容で以降の欄を出し分けにくくなる。画面幅に合わせた折り返しも効きにくく、端末での入力がしづらくなる |
画面として作り直す | 紙と画面で項目の位置が違う状態になり、並行期間の転記で見落としが出る |
どちらの負担が重いかは、並行して紙を回す期間の長さで決まります。申請フォームの項目が52個。どこまで画面に載せるかで扱った項目数の話も、この期間の見立てとつながっています。
同じことは、残る2つにも言えます。押印欄の形をそのまま段数にすれば、決裁でない印まで承認の段になります。バインダーの形をそのまま持ち込めば、決裁が下りたものだけを残すことになり、取り下げの記録が消えます。
代償が発生しないのは帳票出力だけです。 出力するときだけ紙の形になればよく、入力の画面も記録の中身も縛らないためです。
なお、帳票テンプレートに変数を埋め込む作業は製品側の仕様で決まりますが、原因区分の丸印をいくつの選択肢に割るかは、システム側では決められません。その報告を毎月読んで次の対策を決めている人でないと、どの粒度で分けると使えるのかが判断できないためです。
設備保全の報告書は、電子化するとどう回りますか
通し例の報告書を、1件追いかけます。
金曜の夕方に設備が止まり、保全担当が現場から手元の端末で起票します。発生区分と担当区分を選び、原因区分は現場で数えて3つに絞った選択肢から選ぶ。処置内容は自由記述のまま残してあり、紙のときに手で描いていた図は、写真を撮って添付します。
この画面は、紙の様式と項目の位置が違います。紙と並行して回す1か月のあいだは、紙を見ながら打つことになり、紙の3つ目の区分が画面のどこに移ったかを探す場面が出ます。
送信した時点で、申請データが1件できます。まだ課長は開いていません。紙のバインダーには存在しなかった状態です。
課長が確認して決裁が下ります。押印欄は3つ空いていましたが、規程で確かめると決裁の印は課長の1つだけで、残る2つは目を通した記録としての印でした。経路は1段にして、残る2人は閲覧できる人の設定に移します。
月末には、この1件を含む月内の40件あまりを帳票出力で印刷します。既存のExcelテンプレートは、結合されたセルを解いて社判の画像を差し替えてあります。印刷して安全衛生の会議に持ち込む紙は、今までと同じ形です。
ただし、会議に出す件数を決めるところで一度止まります。データには、起票した翌日に取り下げた1件も残っているためです。紙のあいだは、取り下げた紙が机の引き出しに入っていたので、数える対象になりませんでした。 どちらで数えるかは、この会議で何を報告したいかで決まります。
こうして1件を追うと、最初の依頼の行き先が見えてきます。依頼したのは記入する人なので、帳票出力を紙と同じにしても、その人には届きません。 届くのは、金曜の夕方に開いた入力の画面のほうです。一方で、会議に持ち込む紙の形は帳票出力で守れています。守る場所と、直す場所が別だったという話です。
原因区分を3つに絞った判断だけは、後から戻しにくいものが残ります。7つのうち4つを落とした時点で、その4つが今後どれだけ発生していたかは分からなくなります。紙の様式を作り直す判断のうち、見た目の話は後から直せて、分類の話は直せません。
まとめ
紙の様式をそのまま電子化できるかという問いは、4つに割ってから考えると答えが変わります。
- 紙1枚は、記入・回覧・保管・提出の4つを同時に担っていた
- 電子化すると4つが別の仕組みに分かれ、「様式のとおりに」という依頼がどれに向けられたものかを確かめる必要が出てくる
- 見た目を保つ代償を払わずに済むのは帳票出力だけ。入力画面で紙を再現すると、条件による出し分けと端末での入力しやすさを引き受ける
- 申請データは紙のバインダーと生まれる時点が違い、取り下げや差し戻しの分だけ件数が合わない
- 押印欄には決裁以外の印が混ざっており、承認の段として残るのは決裁の印だけ
- 既存のExcelテンプレートは、見た目を守るための作り込みが変数の差し込みと噛み合わないことがある
- 丸印を選択肢にすると紙にあった曖昧さが消える。選択肢の粒度は後から細かくできない
様式を渡されたら、まず4つのどれを守りたいのかを確かめます。守る範囲が決まると、作り直す範囲は残りの側に自然と出てきます。
よくある質問
過去に紙で回した申請書は、システムに取り込みますか
取り込まない選択が一般的です。過去分をシステムに載せるには、紙の内容を項目ごとに打ち直す作業が必要になり、様式が変わっていれば対応先も揃いません。切り替えた日から先だけ電子で、それ以前は紙のまま保管する形が現実的な線になります。社内の申請書なら、スキャンしたPDFを文書管理側に置いて設備名や日付で探せるようにする方法もあります。
様式を改訂すると、過去の申請と集計が合わなくなりますか
区分の選択肢を入れ替えた場合は合わなくなります。多くの製品では申請した時点の様式で保存されるため、改訂の前後で同じ項目の意味が変わっていると、同じ条件で集計しても数が揃いません。改訂した日付と、どの選択肢をどう入れ替えたかを様式の説明に残しておくと、後から読み解けます。
電子化した後も、紙に印刷して保管する必要はありますか
社内で作成した報告書や稟議書は、電子帳簿保存法が対象にしている国税関係の帳簿書類には当たりません。印刷して残す理由があるとすれば、社内の文書管理規程の側にあります。一方、注文書や請求書のように電子でやり取りした取引情報は、印刷して保管する方法では要件を満たさない側に移りました。自社のどの様式がどちらに当たるかは、文書管理規程の保存区分と突き合わせると分かれ目が見えてきます。