変更稟議はどこから必要か。決裁後に金額や相手先が変わったとき
稟議の決裁後に金額が変わったら、出し直しが要るのか
決裁が下りた稟議の金額が、工事の途中で増えた。
設備工事やシステム開発では、着工後に追加の作業が見つかるのは珍しくありません。金額だけでなく、相手先や時期が変わることもあります。そのたびに変更稟議を出すのか、報告で済ませるのか。決裁規程を管理する部門には、こうした問い合わせが届きます。
前に似た相談にどう答えたかを思い出しながら、その場で判断を重ねることになりがちです。
決裁権限規程に書いてあるのは、たいてい新しく起案するときの金額区分です。決裁後の変更については、重要な変更は改めて決裁を得る、という一文があるか、何も書かれていないかのどちらかであることが多くなります。
よく使われるのは、当初の金額から一定の割合を超えて増えたら出し直す、という線です。ただし、割合だけでは、増えた結果として決裁者の権限を超えたかどうかが分かりません。相手先や時期のように、金額以外が変わったときも拾えません。
本記事では、決裁後の変更を、何が動いたかで5つに分けて整理します。問い合わせに答える基準を作り直すときの、たたき台として使ってください。
稟議の決裁後に変わったら、出し直しが要るのはどんなときですか
決裁区分をまたぐ増額、相手先の変更、目的・対象の変更では、出し直しが要ります。区分の内側の増額は報告で済ませる余地があり、時期のずれは予算の付け替えで扱います。増えた割合だけでなく、動いた要素によって、決裁のどこが崩れるかが違うためです。
変更稟議とは、決裁済みの稟議について、決裁した内容の一部を変えるために、元の稟議と結びつけて改めて決裁を得る申請です。企業によっては、再稟議や追加稟議と呼び分けています。
本記事では、次の1件を通し例として使います。工場の空調設備を更新する工事の稟議で、施工業者2社から見積を取り、総額1,800万円で決裁が済んでいます。この企業の規程では、500万円未満は部長、500万円以上2,000万円未満は事業部長、2,000万円以上は社長の決裁です。発注も済み、工事は始まっています。
着工後、天井裏で空調のダクトを支える架台に腐食が見つかりました。施工業者から、架台の交換に300万円の追加見積が届きます。この企業では、更新工事に付随する追加として、当初と同じ設備投資で処理します。総額は2,100万円です。
動いた要素 | 通し例で言うと | 決裁のどこが崩れるか | 出し直しの形 |
|---|---|---|---|
金額(区分の内側) | 追加が100万円で、総額1,900万円 | 決裁した金額 | 報告か変更稟議か。許容幅は企業が決める |
金額(区分をまたぐ) | 追加が300万円で、総額2,100万円 | 決裁者そのもの | 上位の決裁者による変更稟議 |
相手先 | 施工業者が工事を続けられず、別の業者に替える | 業者を選んだ根拠 | 変更稟議。取引先の審査が要るかは規程による |
目的・対象 | 空調の更新に、建屋の断熱改修まで加える | 案件そのもの | 新規稟議 |
時期 | 工期が延び、支払いが翌期にずれる | 予算を計上した年度 | 予算の付け替え。翌期の予算が未承認なら決裁が要る |
区分の内側の増額は、決裁した金額が変わるだけで、決める人は変わりません。区分をまたぐと、そもそも事業部長が決めてよい案件ではなくなります。同じ金額の変更でも、決裁区分をまたぐかどうかで別物になります。
相手先が変わると、2社の見積を比べて選んだという根拠が使えなくなります。
時期のずれは、金額が1円も変わらなくても起きます。当期の予算で決裁していたなら、翌期の予算に移す手続きが経理の側で必要です。
減額も、金額だけが減ったなら決裁の範囲に収まります。ただし、仕様を縮めた結果の減額は、目的・対象が動いたものとして見ます。
変更稟議と追加稟議は、何が違いますか
違うのは、決裁の対象を総額にするか、増えた分だけにするかです。同じ案件・同じ費目である限り、どちらの形でも、決裁者は変更後の総額で判定します。増えた分だけで判定すると、本来の決裁者を通らない経路ができてしまうためです。
通し例で、追加の300万円だけを追加稟議として起案したとします。金額の欄には300万円が入り、ワークフローはその金額で経路を引きます。300万円は部長の区分に収まるため、社長の決裁を通らないまま、総額2,100万円の工事が進みます。
申請者にも承認者にも、規程を避けるつもりはありません。追加分だけを書く書式に、そのとおり書いただけです。それでも結果は、1件の発注を分けて決裁区分を下げる分割発注と同じ形になります。
元の稟議を開き直すのは手間だという理由で、増えた分だけを申請する書式を用意すると、この経路が生まれます。経路が追加分の金額で判定されることに気づくのは、決裁区分をまたぐ追加が出てきたときです。
どちらの形を取るにしても、申請に3つの金額を並べておきます。
- 当初の決裁額
- 今回の増減額
- 変更後の総額
経路の条件には、変更後の総額を使います。承認者も、3つを並べて見れば、何に対して判断しているのかが分かります。
仮に追加分を修繕費として処理する企業なら、話が変わります。投資と経費で決裁権限の表を分けている場合、追加分をどちらの表で判定するかを、規程で先に決めておく必要があります。
出し直しの形は、次の3つから選びます。
形 | 決裁するもの | 引き受けるもの |
|---|---|---|
変更稟議 | 変更後の総額と、変更の理由 | 元の稟議と結びつける項目を持つ |
追加稟議 | 増えた分。経路は総額で判定する | 総額を計算する欄を書式に持たせる |
新規稟議 | 案件全体を改めて | 元の稟議を取り下げるか、完了させるかを決める |
どれを選んでも、元の稟議とのつながりは残しておきます。決裁の記録が2本に分かれていても、結びついていれば、監査で総額を問われたときに1本の案件として説明できます。
金額区分の表をワークフローのどこに置くかは、決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれるで整理しました。変更稟議の経路も、同じ区分表から引きます。
変更の判定は、いつ置きますか
追加の発注や契約の変更を相手方に伝える前です。社内の決裁は後から補えますが、相手方への約束は社内の手続きだけでは戻せません。
通し例を時系列に並べると、判定を置ける場所が見えてきます。
- 見積を取り、稟議で決裁を得る
- 施工業者に発注する
- 着工する
- 架台の腐食が見つかる
- 追加の見積が届く
- 追加の工事を発注する(変更契約を結ぶ)
- 工事が完了し、検収する
- 請求書が届き、支払う
変更稟議を置くのは、5と6のあいだです。追加見積が手元にあり、まだ発注していなければ、社長の決裁を待ってから追加を頼めます。
6のあとで判定すると、事業部長の権限を超えた約束を、すでに相手方としていることになります。事後の決裁で記録は補えても、発注した事実は変わりません。
いちばん遅いのは、8で請求書を見て初めて増額に気づく場合です。現場で口頭のまま追加を頼んでいたときに起きます。
元の稟議を探す手間や、承認者が差分を読み取れないといった弱点は、3つの金額を並べ、元の稟議と結びつければ軽くできます。
起きてから手当てできないのは、権限を超えた発注と、決裁済みの稟議の書き換えの2つです。発注は相手方との約束なので、社内の手続きでは取り消せません。決裁済みの稟議を直接書き換えると、何に対して決裁したのかという証跡そのものがなくなります。後者は、決裁後は編集できない設定にしておけば防げます。
工事中に、安全上止められない追加が出ることもあります。そうした場面に備えて、事後の決裁を受ける手順を規程に書いている企業もあります。事後で処理する場面を限っておけば、事後の決裁が当たり前になるのを防げます。
稟議と発注を別の申請に分けている企業では、発注の申請に金額の変更が入ったとき、どの稟議に戻るのかを決めておく必要があります。区切り方は購買ワークフローをどこで区切るか。稟議・発注・検収・支払で扱いました。
区分の内側の増額は、どこまで報告で済ませられますか
当初の稟議で予備費や上限額を含めて決裁しておけば、その枠の内側は報告で済ませられます。枠を持たない案件や、枠を超えた追加では、許容幅を規程を持つ部門・経理・監査・決裁者のあいだで決めます。
予備費を含めて決裁すると、出し直すかどうかの判定が起案の時点に前倒しされます。決裁区分は、予備費を含めた額で判定します。通し例で予備費を含めた額が2,000万円を超えるなら、当初から社長の決裁です。決裁者が1段上がることがある代わりに、着工後の変更稟議は減ります。
なお、経路の条件をどう組めば総額で判定できるかは設定から確かめられますが、区分の内側の増額をどこまで報告で済ませるかは、設定では決まりません。決める材料は、決裁者が何を気にしているかと、監査で何を問われてきたかで、どちらも社内にしかないものです。
判定の基準を作る前に、誰に何を聞きますか
聞く相手は3つに分かれます。
経理に聞くこと
- 予算は案件ごとに取っているか、部門の枠で取っているか。枠なら、区分の内側の増額でも枠を超えるかを見る必要がある
- 追加分の費目は当初と同じか。資産に計上するか修繕費にするかで、判定する区分表が変わる
- 期をまたいだ支払いを、どの手続きで翌期の予算に移しているか
監査・内部統制の担当に聞くこと
- 過去の監査で、決裁額と支払額の差を問われたことがあるか。問われたなら、どの程度の差からか
- 追加分を別の稟議にした案件を、1本の案件として説明できる記録になっているか
決裁者に聞くこと
- 区分の内側の増額で、事前に知らせてほしいのはどんな変更か。金額か、理由か、相手先か
- 報告で済ませた変更を、あとからまとめて確認したいか
答えが揃うと、報告で済ませる範囲を、割合や金額だけでなく、決裁者が何を見たいかと併せて規程に書けるようになります。
まとめ
決裁後の変更で出し直しが要るかは、増えた割合だけでなく、決裁が決めた要素のどれが動いたかで分かれます。
- 変更稟議とは、決裁済みの稟議の一部を変えるために、元の稟議と結びつけて改めて決裁を得る申請
- 動く要素は、区分の内側の金額、区分をまたぐ金額、相手先、目的・対象、時期の5つ
- 同じ案件・同じ費目なら、変更稟議でも追加稟議でも、決裁者は変更後の総額で判定する
- 判定は、追加の発注や契約の変更を相手方に伝える前に済ませる
- 権限を超えた発注と、決裁済みの稟議の書き換えは、起きてからは戻せない
- 予備費を含めて決裁しておけば、判定を起案の時点に前倒しできる。枠の外の許容幅は、規程を持つ部門・経理・監査・決裁者が何を見たいかで決まる
よくある質問
減額のときも、変更稟議は必要ですか
金額だけが減ったなら、決裁の範囲に収まるため、報告で済ませる扱いにしている企業もあります。仕様を縮めた結果の減額は、目的・対象の変更として扱います。浮いた予算を別の用途に回すなら、その用途の側で決裁が要ります。
決裁済みの稟議を、申請者が直接修正してもよいですか
決裁後は編集できない設定にして、変更は別の申請として元の稟議に結びつけるのが一般的です。誤字のような軽微な訂正をどう扱うかは、企業ごとに分かれます。
変更稟議と再稟議は、呼び分ける必要がありますか
呼び方は企業ごとに違い、どちらかが正しいわけではありません。分けている企業では、元の稟議の一部を変えるものを変更稟議、取り下げて案件全体を起案し直すものを再稟議と呼ぶ例があります。呼び分けるなら、それぞれで決裁区分を何の金額で判定するかを規程に書いておくと、問い合わせへの答えが揃います。