ワークフローの管理者権限、部門に分けても情シスに戻る依頼
ワークフローの管理者権限は、どこまで部門に渡せるのか
ワークフローの管理者権限を持っているのは情シスの2名だけ。各部門からの設定変更の依頼は、すべてこの2名に届きます。
権限を部門に分ければ減りそうに見えますが、分けたあとも情シスに戻ってくる依頼があります。依頼を出した部門と、その変更が届く範囲が一致していない依頼です。
選択肢を1つ足したい、承認者を差し替えたい、説明文を直したい。1件ずつは小さな作業でも、毎日のように積み上がると、本来のIT業務が後ろへずれていきます。
管理者権限を部門に分けて渡す機能は、多くのワークフロー製品が持っています。それでも依頼が戻ってくるのは、部門の担当者が設定に慣れていないからではありません。変更の中身が、部門の外まで届くからです。
本記事では、管理者権限をどこで分けるかを、変更が届く範囲から整理します。部門へ渡す範囲を決めるときの判断材料として使ってください。
ワークフローの管理者権限は、何を基準に分けますか
分ける基準は、依頼を出す部門ではなく、その変更が誰に届くかです。届く範囲が1つの部門に収まる変更は部門に渡せます。部門の外に届く変更は、届く先の確認を挟むか、情シスの手元に残すことになります。
ワークフローの管理者権限とは、申請フォーム・承認経路・利用者や組織のマスタといった設定を変更できる権限のことです。製品によっては、様式単位や機能単位で、誰がどこまで触れるかを絞れます。絞れる単位があっても、どこで絞るかは製品が決めてくれません。
変更が1つの部門に収まっているかは、3つの顔ぶれで見ます。その様式で申請する人、経路の上で承認する人、入力された値をあとで使う人です。3つとも1つの部門に収まっていれば、部門に渡せる変更です。
この見方で設定変更の依頼を並べると、4つの層に分かれます。
層 | 主な変更 | 届く範囲 | 扱い方 |
|---|---|---|---|
様式の中で閉じる変更 | 部門専用の様式の説明文、入力例、集計や会計に使わない選択肢 | 3つの顔ぶれが1部門に収まる | 部門が変更して公開する |
他部門を通る変更 | 全社共通の様式の文言や選択肢、勘定科目に紐づく選択肢、他部門の承認者 | 様式を使う全部門、経路上の承認者、値を使う部門 | 部門が変更し、届く先の部門の確認を経て公開する |
規程に紐づく変更 | 経路を分ける金額、決裁者、閲覧できる範囲 | 決裁権限規程や情報管理の規程 | 規程の改定を受けて情シスが反映する |
全社の基盤に触れる変更 | 利用者、組織、役職、ログインの方式 | 全社員 | 人事の発令や全社の方針を受けて情シスが反映する |
依頼元の部門と、変更が届く範囲はどうずれますか
購買申請のような全社共通の様式では、管理している部門がはっきりしていても、変更は全社に届きます。1件の依頼の中に、層の違う変更が混ざることも珍しくありません。
本記事では、次の1件を通し例として使います。購買部から届いた依頼で、決裁権限規程が改定され、10月1日から50万円以上の購買申請は工場長の承認を経ることになった。それに合わせて経路を変えてほしい、ついでに品目区分に保守部品を足してほしい、という内容です。
依頼を出したのは購買部で、購買申請の様式を管理しているのも購買部です。
ただし、購買申請を出すのは購買部の社員だけではありません。工場も営業所も本社の各部も、物を買うときはこの様式から申請します。品目区分に1行足すと、全社の申請者の画面が変わります。経理が品目区分ごとに勘定科目を割り当てているなら、その対応表にも1行足す作業が生まれます。
後半の経路の変更は、さらに外へ届きます。50万円という線を決めたのは購買部ではなく、規程を改定した決議です。
この1件は、2つの層にまたがっています。品目区分の追加は他部門を通る変更で、経路の変更は規程に紐づく変更です。前半は経理の確認を経れば購買部の手で公開できますが、後半は購買部の手を離れます。
設定の誤りのうち、後から直せないのはどれですか
文言や選択肢の誤りは、気づいた時点で直せます。規程に紐づく設定の誤りは、直す前に成立した決裁の記録が消えません。
様式の中で閉じる変更は、誤っても被害が小さく済みます。説明文の誤りは次の申請から直り、選択肢の追加漏れは申請者からの問い合わせですぐに見つかります。
他部門を通る変更も、多くは直せる側に入ります。品目区分を足したのに経理の対応表が追いついていなければ、その期間の申請で勘定科目が空く。ずれた期間の申請を洗い出せば補正できます。手間はかかりますが、取り返しはつきます。
直せないのは、規程に紐づく設定です。通し例の50万円の線で、実務で起きやすい誤りは3つあります。
- 規程は50万円以上なのに、50万円を超える場合で設定した
- 規程は税込で定めているのに、申請の税抜金額で判定した
- 10月1日を過ぎても、経路の切り替えが済んでいなかった
どれも、その間に出た申請の一部が工場長の承認を経ずに決裁されます。発注の取消や工場長の追認で、実害は抑えられるかもしれません。それでも、規程と違う経路で決裁が成立したという記録は消えず、内部統制の上では不備があった事実として扱われます。
誤りの向きによって重さは変わります。逆に、本来は不要な申請にまで工場長の承認が入る誤りなら、経路が長くなるだけです。決裁の不備にはなりません。
設定を直しても、それで終わりにはなりません。多くの製品では、経路は申請した時点の設定で決まります。直した時点で申請中の案件は、誤った経路のまま進みます。差し戻すか取り下げてもらい、新しい経路で申請し直す手順が必要です。
閲覧できる範囲の誤りは、さらに戻せません。見えるはずのない部門に稟議が見えていた場合、設定を直しても、見られた事実は消えないためです。
層 | 誤りの例 | 直せるか | 引き受けるもの |
|---|---|---|---|
様式の中で閉じる変更 | 説明文、部門専用の選択肢 | 次の申請から直る | ほぼなし |
他部門を通る変更 | 共通の選択肢、勘定科目との対応 | 期間を洗い出せば補正できる | 対象申請の特定と補正の手間 |
規程に紐づく変更 | 金額の線、決裁者 | 成立した決裁の記録は消えない | 規程と違う経路で通った申請の説明と、申請中の案件の組み直し |
規程に紐づく変更 | 閲覧できる範囲 | 見られた事実は消えない | 情報が届いた範囲の特定と報告 |
全社の基盤に触れる変更 | 役職や所属の誤り | 誤った決裁者で成立した記録は消えない | 規程に紐づく変更と同じ |
部門に渡すかどうかは、作業の件数ではなく、この表の下の3行で決まります。件数の多い上の層は部門に渡し、件数が少なくても戻せない下の層は手元に残す。その間にある他部門を通る変更は、確認を挟めば部門の手で公開できます。
決裁権限規程の1行が経路のどこに落ちるかは、決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれるで整理しました。
規程に紐づく変更は、どう反映しますか
決議と施行日を起点に、所管部門が整合を確かめ、情シスが反映して履歴を残します。
規程に紐づく変更を手元に残すと、情シスが規程の中身まで判断する立場に置かれがちです。ただし、情シスが持っているのは、設定を反映する手と設定の履歴です。規程の中身を決める立場にはありません。
通し例の後半は、次の順に進みます。
- 決裁権限規程の改定が、経営会議や取締役会などの決議で決まる。施行日が付く
- 規程の所管部門(総務や経営企画)が、改定の内容と、経路の設定に反映すべき箇所を整理する。施行日より前に申請された案件に新しい規程を当てるかどうか、附則の経過措置の定めもここで確かめる
- 情シスが施行日に合わせて経路を切り替え、変更の履歴を残す
2つ目の経過措置は見落とされやすいところです。経路が申請した時点の設定で決まる製品では、9月30日に申請されて10月1日以降に決裁される案件は、切り替えが正しくても元の経路で進みます。それで規程どおりかどうかは、改定規程の附則の書き方次第です。
購買部の依頼は、3つ目を前倒しで求めたものにあたります。依頼を受けた情シスが確かめるのは、決議があったか、施行日はいつか、金額の線は以上か超か、税込か税抜か。答えるのは購買部ではなく、所管部門です。
この分担を形にする方法として、設定の変更依頼そのものを申請として回す企業があります。依頼を出すのは部門、改定との整合を確かめるのは所管部門、反映するのは情シスです。依頼の履歴がそのまま設定変更の記録になり、監査で設定がいつ誰の判断で変わったかを問われたときにも答えられます。
同じ仕組みは他部門を通る変更にも使えます。品目区分の追加なら、依頼の経路に経理の確認を挟み、対応表が直ってから購買部が公開する。ただし製品が公開そのものを止めてくれるとは限らないため、確認を経てから公開する順番は運用で守ることになります。
部門に分けると、情シスの仕事はどう変わりますか
減るのは設定の作業で、増えるのは確認と追従の仕事です。全社の基盤の更新は、どの部門に渡しても手元に残ります。
様式の中で閉じる変更を部門に渡すと、説明文の修正や部門専用の様式の選択肢は、依頼を経ずに部門の中で直るようになります。件数が多いのはこの層なので、手元に届く依頼の数は減ります。
代わりに、次の仕事が情シスに残ります。
- 部門の担当者から届く、設定方法の問い合わせに答える
- 部門の担当者が異動や退職をしたときに、権限を外して後任に付け替える
- 部門が作った様式を定期的に見て、全社の様式と重複していないかを確かめる
- 規程が改定されたとき、部門が作った経路のどこに影響するかを洗い出す。購買申請なら、50万円の線が入った分岐がその対象になる
組織や役職の更新は、人事の発令が起点です。どの部門の依頼にも属さないため、部門に渡す対象になりません。発令日に合わせてマスタを切り替え、申請中の案件の承認者をどう扱うかを決める作業も手元に残ります。期初は規程の施行と人事の発令が同じ日に重なりやすく、2つの層の切り替えを1日でこなすことになりがちです。この作業の重さは、承認経路のメンテが終わらない理由でも扱っています。
部門に渡せる範囲は広いほどよい、という見方があります。情シスの手元に届く依頼が減れば目的を果たせる、という考え方です。ただし、部門に様式の新規作成まで渡すと、別の問題が出ます。決裁権限規程の金額区分が改定されたのに、部門が作った経路のいくつかが改定前の金額のまま残る。部門の担当者が、規程が変わったことを知らされていないためです。
様式を新しく作れば、経路と閲覧できる範囲もその場で決まります。様式の作成を渡した時点で、規程に紐づく設定も部門に渡っていたことになります。
様式の作成を部門に渡すなら、金額で分かれる経路と閲覧できる範囲だけは情シスが入れるか、作成の段階で情シスの確認を挟む。この線を引いておかないと、渡した範囲の分だけ、規程とずれた設定が各部門に散らばっていきます。
部門に渡す前に、何を確かめますか
分け方は企業ごとに違います。決める前に確かめておく問いを、相手ごとに並べます。
規程の所管部門に聞くこと
- 決裁権限規程が改定されたとき、施行日と改定内容はどの部門まで届く仕組みになっているか
- 規程の金額は税込か税抜か、以上か超か。設定に写すときの読み方を誰が決めるか
- 施行日より前に申請された案件に新しい規程を当てるかを、附則でどう定めているか
各部門に聞くこと
- 管理している様式のうち、申請する人・承認する人・値を使う人がすべて自部門に収まるものはどれか。購買申請のように、値を経理が使う様式は含まれていないか
- 担当者が異動したとき、後任を誰が決めて情シスに伝えるか
製品の提供元に聞くこと
- 管理者の権限を、様式単位で絞れるか。選択肢と経路と閲覧できる範囲を分けて渡せるか
- 設定の変更が、確認を経るまで公開されない形にできるか
- 設定の変更履歴が、誰の操作として、いつまで残るか
- 経路の設定を変えたとき、申請中の案件は元の経路で進むか、新しい経路に切り替わるか
まとめ
- ワークフローの管理者権限は、依頼を出す部門ではなく、変更が届く範囲で分ける
- 届く範囲は、申請する人・承認する人・値をあとで使う人の3つで見る
- 設定変更は4つの層に分かれ、扱いは3通りになる。部門が公開する、届く先の確認を経て部門が公開する、規程や発令を受けて情シスが反映する
- 規程に紐づく設定と基盤の誤りは、成立した決裁の記録や見られた事実が消えない。ただし承認が増える向きの誤りは、決裁の不備にはならない
- 規程に紐づく変更は、決議と施行日を起点に、所管部門が整合と経過措置を確かめ、情シスが反映して履歴を残す
- 様式の作成を部門に渡すと、経路と閲覧できる範囲も一緒に渡る。その2つだけは情シスが入れるか、確認を挟む
よくある質問
部門の管理者には、どの部門の社員を置けばよいですか
様式の内容を一番よく知っている人が向いていますが、条件はそれだけではありません。規程の改定や全社の様式の変更を受け取る先として、情シスや規程の所管部門と連絡が取れる人である必要があります。担当者1名に任せると異動のたびに空白ができるため、正副の2名を置く形が考えられます。
規程が改定されたとき、申請中の案件はどうなりますか
経路が申請した時点の設定で決まる製品では、施行日前に申請された案件は元の経路のまま進みます。それを認めるかどうかは、改定規程の附則に置く経過措置で決まります。附則に定めがなければ、所管部門が扱いを整理して判断を仰ぐことになります。新しい規程を当てるなら差し戻して申請し直してもらい、当てないなら元の経路で決裁してよいという判断を記録に残しておくと、あとで説明がつきます。
管理者権限を分けると、監査で指摘を受けることはありますか
権限を分けること自体が問題になるわけではありません。問われるのは、規程に紐づく設定を誰がいつ、何を根拠に変えたかを説明できるかどうかです。変更履歴が操作した人の名前で残り、規程に紐づく変更が決議と施行日に沿って反映されていれば、分けていても説明はつきます。