ワークフローの多言語対応は誰が何語で読むかで決まる
ワークフローの多言語対応は、対応言語の数で選べるのか
本記事は連載「ワークフロー検討の現場から〜そのお悩みにお答えします〜」の第29回です。本連載は、ワークフローシステム「kickflow」の商談において検討中の企業から実際に寄せられた質問を起点に、製品選定の現場で繰り返し議論になるテーマを整理するものです。特定製品の優劣ではなく、判断の考え方そのものを扱います。第29回のテーマは、海外拠点で使うワークフローの多言語対応です。
海外拠点で使うワークフローに、多言語対応はどこまで要るのか。
製品の比較表を見ると、対応言語の欄には英語や中国語が並んでいます。デモで言語設定を英語に切り替えると、メニューもボタンも英語になります。
ところが、海外拠点の現地スタッフに試してもらうと、ボタンは英語なのに申請フォームの項目名は日本語のまま。本社の承認者から返ってくる差し戻しのコメントも日本語です。英語対応と書かれていたのに、このままでは現地に出せない、という状態になります。
言語設定を切り替えると標準で変わるのは、製品があらかじめ持っている文言です。項目名は自社の管理者が作った文言で、コメントは承認者が書いた文言。どちらも、言語設定だけでは訳されません。
比較表の対応言語の欄は、製品が持つ文言についての情報で、それ自体は正確です。ただし、1件の申請の画面には、製品・管理者・利用者・社外の4者が書いた文言が混ざっています。比較表が答えているのは、そのうち1つだけです。
ワークフローの多言語対応は、どこまで要りますか
範囲を決めるのは対応言語の数ではなく、どの文言を誰が何語で読むかです。画面の文言は持ち主で4つに分かれます。言語設定が標準で受け持つのは製品の文言で、残りの3つは、訳を用意するか、書く言語や確かめる段を決めるのが自社です。
ワークフローの多言語対応とは、言語の異なる申請者・承認者と、決裁後に記録を読む人が、同じ申請をそれぞれ読める言語で書き、読み、判断できる状態にすることです。画面が英語になるのは、その一部にあたります。
文言の種類 | 例 | 言語設定で切り替わるか | 自社が決めること |
|---|---|---|---|
製品が持つ文言 | メニュー、ボタン、ステータス、通知の定型文 | 切り替わる | 対応言語に拠点の言語が入っているか |
管理者が作る文言 | フォーム名、項目名、説明文、選択肢、組織名、役職名 | 製品による。言語別に表示名を持てる製品もあるが、訳を登録するのは自社 | 併記するか、表示名を言語別に持つか、フォームを分けるか |
利用者が書く文言 | 件名、申請の目的、承認・差し戻しのコメント | 切り替わらない。自動翻訳を持つ製品もある | 何語で書き、何語で記録に残すか |
社外から来る文言 | 現地の見積書、契約書案、カタログ | 切り替わらない | 誰がその言語で中身を確かめるか |
本記事では、次の1件を通し例として使います。海外の販売拠点の現地スタッフが、現地で開かれる展示会への出展を申請する。出展料と装飾費で、円換算でおよそ300万円。経路は、現地のマネージャー、本社の海外営業部長、経営企画の合議の順です。現地の2人は英語で読み書きし、本社の2人は日本語で判断します。添付は、現地の主催者から届いた現地語の見積書です。
この1件だけで、4種類の文言がすべて登場します。
1件の申請で、翻訳が要るのはどの段ですか
製品の文言はすべての段に出て、そこは言語設定が受け持ちます。自社で決める必要があるのは、管理者の文言を読む段、利用者の文言が言語をまたぐ段、現地語の添付を読む段、そして決裁後に記録を読み返す段です。
段 | 誰が | 読む・書く文言 | 何語で |
|---|---|---|---|
1. フォームを開く | 現地スタッフ | 管理者が作った項目名と説明文を読む | 英語で読みたい |
2. 入力する | 現地スタッフ | 目的と内訳を書き、見積書を添付する | 英語で書く。見積書は現地語 |
3. 1段目の承認 | 現地マネージャー | 申請の内容と見積書を読む | 英語と現地語。どちらも読める |
4. 2段目の承認 | 海外営業部長 | 申請の内容と見積書を読む | 日本語で判断したい |
5. 差し戻しと再申請 | 海外営業部長と現地スタッフ | コメントを書き、読み、申請を直す | 部長は日本語で書き、スタッフは英語で読んで英語で直す。再申請は3と4の段をもう一度通る |
6. 合議 | 経営企画 | 申請の内容を読む | 日本語で判断したい |
7. 決裁後 | 経理、監査 | 記録を読み返す | 数か月後から数年後に、日本語で |
並べると、翻訳の向きと頻度は、文言の持ち主ごとに違うことが分かります。
- 管理者の文言:本社が作り、現地が読む。一度用意すれば、申請のたびには変わらない
- 利用者の文言:申請のたびに現地と本社を行き来する。書かれた原文は、そのまま将来の読み手である経理や監査に残る
- 社外の文言:訳すより先に、どの段で中身を確かめるかを決める
言語設定を切り替えるだけで訳まで済むものは、この中にありません。
対応言語の数で選ぶと、何が残りますか
管理者・利用者・社外の3者の文言が手当てされずに残ります。現地スタッフの母語が対応言語に入っていれば、メニューやボタンで迷うことは減りますが、効き目はそこまでです。
3者の文言と製品の文言が混ざる様子が、いちばん分かりやすいのは通知です。
4の段で海外営業部長に届く承認依頼は、定型文が日本語、フォーム名は管理者が付けた名前、件名は現地スタッフが書いた英語、という1通になります。言語設定を日本語にしていても、件名だけでは何の申請かがつかめず、開いて読むことになります。
件名が英語なのは、現地スタッフが英語で書くよう言われているからです。スタッフの振る舞いも部長の受け取り方も、間違っていません。件名を何語で書くかは、言語設定では決まりません。
多言語対応について、言語設定を切り替えて画面が英語になるところを見せる説明では、ここに届きません。現地スタッフ向けに日本語のフォームの英訳マニュアルを作ろうとしている企業で論点になっているのは、画面の言語ではなく項目名をどう読ませるかです。言語設定は、その問いに答えていません。
管理者が作る文言は、どう持ちますか
持ち方は3つあり、組み合わせてもかまいません。判断の軸は、経路の途中で言語が変わるかどうかと、フォームを2系統で保守し続けられるかどうかです。
持ち方 | 画面で起きること | 引き受けるもの |
|---|---|---|
1つのフォームに併記する | 「件名 / Subject」のように項目名が長くなる | 項目名の文字数の上限と画面の長さ。改定のたびに2言語を直す |
製品の機能で表示名を言語別に持つ | 読む人の言語設定に合わせて項目名が切り替わる | 製品が対応しているか。訳を登録する作業と、改定時の更新漏れ |
言語別にフォームを分ける | 英語版と日本語版の2本になる | 経路の途中で言語が変わると、承認者は申請者の言語のフォームを読む。経路・条件・集計を2本保守する |
通し例で考えると、言語別フォームの弱点がはっきりします。
現地スタッフが英語版のフォームで申請すれば、本社の部長と経営企画も英語の項目名で判断します。フォームを分けて楽になるのは申請者の側だけで、言語をまたぐ承認者の側は楽になりません。
経路・条件・集計・検索も2系統で積み上がり、改定のたびに2本の間に差が出ます。後から1本に統合しようとすると、2本の項目を1つずつ対応づける作業が要ります。
見落としやすいのは組織名と役職名です。経路の表示に出る「海外営業部長」も、現地スタッフの画面に載ります。組織名と役職名は、フォームを分けても分かれません。組織図は全社で1つだからです。言語別フォームを選んだ企業でも、組織名だけは併記するか、製品の機能で表示名を持つしかありません。
選択肢にも一段注意が要ります。経路の条件や集計に使う選択肢は、表示の言語を変えても条件が崩れないかを、ベンダーに確かめておくと安心です。
利用者が書く文言は、何語で残しますか
決めるのは、読む人の言語だけではなく、記録として残す言語です。手元の翻訳ツールで訳した訳文は決裁の記録に残りません。製品内の自動翻訳の訳文が残るかは製品によりますが、どの場合でも確実に残るのは書かれた原文です。
7の段で経理や監査が読み返すのは、この原文です。数年後に何を見て決裁したかを問われたとき、答えられるのは記録に残っている言語の範囲に限られます。監査で記録から何を問われるかは、ワークフローの監査対応。閲覧権限では答えられない質問で整理しました。
書き方 | 書く人の負担 | 引き受けるもの |
|---|---|---|
共通語(例:英語)で書く | 現地スタッフは普段どおり | 本社の承認者・経理・監査が英語で読んで判断する |
書き手の言語で書き、読み手が手元のツールで訳す | いちばん軽い | どの訳を見て判断したかが記録に残らない。数年後に原文を誰が読むか |
本文と別に要約欄を設ける | 要約の分だけ増える | 要約と本文がずれたとき、どちらを正とするかを決めておく |
差し戻しのコメントは、この判断がいちばん効く場所です。5の段で部長が日本語で書いたコメントを、現地スタッフが訳して読む。訳で取り違えると、直して出し直した申請がまた戻ってきます。
差し戻しが往復する構造そのものは、稟議の差し戻しが減らないのは、承認する側の判断基準が申請画面に載っていないからで扱いました。言語が分かれると、基準をコメントの一行に収める難しさが、もう一段増えます。
現地語の添付書類は、どの段で確かめますか
決めるのは翻訳ではなく、中身を確かめる責任をどの段に置くかです。軸は、その言語を読める人が経路のどこにいるかです。
見積書は現地語のまま届き、本社の2人は読めません。通し例なら、見積書の金額と内訳が申請と合っているかは、現地語を読める現地マネージャーの段で確かめる。本社の2人は、申請画面の内訳欄で判断する。そういう分け方ができます。
この場合、現地マネージャーの承認が何を確かめたものかを経路の説明に書いておくと、あとから記録として読めます。添付の欄の分け方は、ワークフローの添付ファイルは、欄をどこまで分けるかで扱っています。
小さく始めるときに、先に決めておくことは何ですか
後から戻せない判断です。海外拠点への展開は、1つの拠点から小さく始めることがあります。分かれ目は、その判断が決裁済みの記録の中身になるかどうかです。表示や手順は次の申請から直せますが、記録の中身になったものは、ルールを変えても過去の分が元のまま残ります。
区分 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
戻しにくい | 利用者が書く文言を何語で残すか | 書かれた本文は記録そのもので、決裁後に書き直せない |
戻しにくい | フォームを言語別に分けるか | 記録が2系統に分かれて積み上がり、統合には項目の対応づけが要る |
後から直せる | 項目名の訳語、説明文、通知の文面 | 表示の話なので、直せば次の申請から変わる |
後から直せる | 現地向けのマニュアル | 運用しながら足していける |
なお、どの文言が言語設定で切り替わり、どれが切り替わらないかは、製品の画面で確かめられます。一方、本社の承認者が英語の申請をどこまで読み込めるか、現地スタッフに日本語の項目名をどこまで求めてよいかは、その企業の中でしか決められません。
まとめ
ワークフローの多言語対応で決めることの範囲は、対応言語の数ではなく、どの文言を誰が何語で読むかで決まります。
- 画面の文言は、製品・管理者・利用者・社外の4つの持ち主に分かれる。言語設定が標準で受け持つのは製品の文言で、残りの3つは訳を用意するか、書く言語や確かめる段を自社で決める
- 翻訳の向きと頻度は持ち主ごとに違う。管理者の文言は一度だけ、利用者の文言は申請のたびに行き来して原文が記録に残り、社外の文言は確かめる段を決める
- 管理者が作る文言は、併記・製品の機能・言語別フォームを組み合わせて持つ。言語別フォームは承認者の側を楽にせず、後から戻しにくい
- 組織名と役職名は、フォームを分けても分かれない
- 利用者が書く文言は、読む人の言語に加えて、記録として残す言語で決める
- 戻しにくいかどうかの分かれ目は、その判断が決裁済みの記録の中身になるかどうか
よくある質問
拠点の言語が製品の対応言語にない場合は、どうすればよいですか
製品の文言は英語などの共通語で表示し、管理者が作る文言に現地語を併記する、という分け方があります。申請の中身を左右するのは項目名や説明文のほうなので、現地語を置く効き目はそちらに出やすくなります。どこまで現地語にするかは、現地スタッフの英語の習熟度で分かれます。
承認コメントを自動翻訳できれば、書く言語は決めなくてよいですか
読む負担は軽くなりますが、記録として残す言語は別に決めておく必要があります。訳文が記録に残るかどうかは製品によって分かれるため、ベンダーに確かめておくと判断しやすくなります。
本社の承認者が英語を読めない場合は、どうすればよいですか
本文は現地スタッフの書きやすい言語のまま、日本語の要約欄を設ける形があります。要約と本文がずれたときにどちらを正とするかを決めておけば、本社は要約で判断し、本文と見積書の確認は現地の段に任せられます。どこまで要約に寄せるかは、本社の承認者が何を見て判断したいかで分かれます。