並列承認で合議を組む前に、異議の出口を決めておく
合議を並列承認に組み替えると、なぜ往復が増えるのか
本記事は連載「ワークフロー検討の現場から〜そのお悩みにお答えします〜」の第25回です。本連載は、ワークフローシステム「kickflow」の商談において検討中の企業から実際に寄せられた質問を起点に、製品選定の現場で繰り返し議論になるテーマを整理するものです。特定製品の優劣ではなく、判断の考え方そのものを扱います。第25回のテーマは、合議を並列承認に置き換えたときに残る往復です。
並列承認に組み替えた合議の段で、稟議が戻ってきた。差し戻したのは法務で、情シスと経理はすでに承認を済ませています。紙の稟議をワークフローへ移したときに、決裁権限基準表の合議の列をそのまま並列の段に置き換えた経路です。
この段には、合議先が懸念を決裁者へ渡す出口がありません。紙の稟議のように、異議を書き添えて次へ回すことができないためです。申請者の側からは、情シスと経理に承認をお願いし直すことになり、法務の指摘が自分で直せる話なのかも分かりません。
差し戻した法務の判断は、間違っていません。気になる点を見つけたまま承認すれば、その懸念は承認の記録に埋もれます。決裁者に確実に届けたいなら差し戻すしかない作りになっていることが多くあります。
合議が遅いという相談には、直列を並列に組み替える手がまず挙がります。待ち時間は確かに縮みますが、往復のほうは減りません。
本記事では、合議先の指摘を3つの種類に分け、それぞれの合議先にどこまで止める力を持たせるかを整理します。
並列承認で合議を組むと、何が変わりますか
並列承認とは、同じ段に複数の承認者を置き、多くの場合は全員の承認がそろったところで次の段へ進める経路の組み方です。合議を承認の段に置き換えると、異議を書き添えて回す道が消えます。並列にすると、1人の差し戻しでほかの合議先の承認も巻き戻ります。
本記事では、次の1件を通し例として使います。営業部から上がってきた営業支援ツールの導入稟議で、クラウドサービスの3年契約、年額480万円。経路は3段です。
- 営業部長
- 合議:情シス・法務・経理(並列)
- 管理本部長(決裁)
情シスはセキュリティの基準を、法務は利用規約を、経理は予算と計上の区分を見ます。この企業では、契約の審査を別の申請に分けず、稟議の合議の中で法務が兼ねています。
承認の段に置き換えると消えるもの
紙で回していた頃、法務が規約に気になる点を見つけても、通せないほどの問題でなければ、余白に意見を書いて押印し、次へ回せました。決裁者は稟議書を開けば、その意見を目にします。
稟議規程のひな形にも、合議で意見がまとまらないときは異議の要旨を稟議書に書いて次へ回付する、という定めが見られます。合議先が同意しなければ決裁が止まる運用の企業もあり、どちらに当たるかは規程次第です。
ワークフローの承認の段で合議先が選べるのは、基本は承認と差し戻しで、却下が加わることもあります。承認にコメントを添えることはできますが、記録の上では承認として残り、経路は先へ進みます。条件付きの承認のような選択肢を持つ製品もありますが、一般的とは言えません。異議を持ったまま次へ回すという選び方は、ボタンとしては用意されていないことが多いのが実情です。
ここまでは、合議先を直列に並べても同じです。合議先が懸念を伝える手段が承認か差し戻ししかないことは、並べ方では変わりません。
並列にすると加わるもの
並列にすると、合議先1人の差し戻しが、承認を済ませたほかの合議先の承認ごと稟議を申請者へ戻します。再申請で経路をはじめからたどる作りなら、情シスと経理は、変わっていない内容にもう一度承認することになります。
承認済みの人の承認を引き継ぐ設定を持つ製品もあり、ここは製品ごとに異なります。
合議先の指摘は、どの3つの種類に分かれますか
申請者が直せる不備、満たさなければ通せない条件、決裁者に判断してほしい懸念の3つです。申請者に直してもらうための差し戻しが合うのは、最初の1つだけです。
指摘の種類 | 通し例での例 | 解消できるのは | 合う操作 |
|---|---|---|---|
申請者が直せる不備 | 見積書の金額と申請の金額が合わない | 申請者 | 差し戻し |
満たさなければ通せない条件 | 社内の認証基準に対応していない | 稟議の外での判断(製品を変える、基準の例外を認める) | 止める(却下、なければ差し戻し) |
決裁者に判断してほしい懸念 | 損害賠償の上限が直近1年分の利用料まで | 決裁者 | 意見を付けて先へ回す |
申請者が直せる不備
経理が見ると、添付の見積書と申請の金額が合っていません。営業が直して出し直せば済みます。差し戻しは、もともとこの種類のための操作です。
ベンダーに条件の変更を打診してもらう差し戻しも、ここに入ります。交渉の余地があるなら、申請者に動いてもらう意味があります。
満たさなければ通せない条件
情シスの基準ではシングルサインオンへの対応が必須なのに、ツールが対応していないとします。申請者が入力を直しても解消しません。製品を選び直すか、基準の例外を認めるかは稟議の外で決まることです。
この種類では、合議先が止める力を持っていることが正しい作りです。並列の段で1人の差し戻しが稟議を止めるのは、ここでは困りごとではありません。
決裁者に判断してほしい懸念
法務が見つけたのは、この種類でした。利用規約で、サービス提供側の損害賠償の上限が、直近1年分の利用料までと定められています。クラウドサービスの標準の規約で、個別の交渉では変わらないことを法務は知っています。交渉の余地を確かめた後にも残るリスクです。
通せないほどの問題ではないが、決裁する人には知っておいてほしい。法務の役割は、このリスクを受け入れるかどうかを決めることではありません。決裁者がそれを知ったうえで決められるようにすることです。承認の段には、決裁者に渡したい懸念を運ぶための出口がありません。
懸念を差し戻しで運ぶと、何が残りますか
往復だけが残ります。申請者が直した不備はないため、往復の目的は、合議先の懸念を決裁者が読む場所へ移すことだけになります。
法務は差し戻して、損害賠償の上限について稟議の本文に一文書き足すよう営業に求めます。決裁者の目に確実に入る場所が、申請の本文しかないからです。
営業が一文を足して再申請すると、情シスと経理は、その一文のほかは同じ稟議にもう一度承認を押すことになります。法務は今度は承認します。
では法務が最初から、コメントを添えて承認していたらどうか。往復は起きません。ただし、決裁者の画面では、合議の段に承認済みが3つ並びます。コメントを開かなければ、3つの承認は同じ重さに見えます。
差し戻しで運べば往復が残り、承認で運べば懸念が埋もれる。どちらを選んでも、法務は損な役回りを引き受けることになります。
合議が遅いという相談に対して、直列を並列に組み替える案から入ると、ここが見えません。並列にしてから承認のやり直しが増えた場合、やり直しの元になった差し戻しを合議先ごとに追うと、申請者には直しようのない指摘が混ざっています。待ち時間を縮める話と、懸念の運び方の話は、同じ設定では片づきません。
合議先ごとに、止める力をどこまで持たせますか
合議先の部門ごとに、その部門の指摘がどの種類に当たるかで置き方を決めます。2つの種類を持つ部門には、出口を併設します。
合議先の役割 | 通し例 | 置き方 | 引き受けるもの |
|---|---|---|---|
止める条件を持つ | 情シスの認証基準、経理の予算枠 | 並列の承認に残す | 1人の差し戻しで、ほかの合議先の承認もやり直しになる |
懸念を決裁者に渡す(合議の中で) | 法務の規約確認 | 並列の承認に残し、合議意見の項目を持たせて決裁者の画面に出す | 意見の有無を毎回入力する手間。意見付きで通った件を誰が後から見るかの取り決め |
懸念を決裁者に渡す(稟議の前で) | 法務の規約確認 | 契約審査を稟議の前の別の申請に出し、審査の結果を稟議に添付する | 申請者の手間が1工程増える。審査の後に契約条件が変わると審査をやり直す |
知らせておけば足りる | 導入後に利用部門を把握したい総務 | 決裁後の回覧へ移す | 決裁の前に異議を出す機会がなくなる |
止める条件を持つ部門は、並列の段で差し戻せる作りのままで構いません。往復を減らしたいなら、条件そのものを申請画面で先に確かめられる形にするほうが効きます。認証方式や予算の残りを申請者に入力させれば、通らない稟議は合議の手前で分かります。
懸念を合議の中で渡すなら、承認ボタンとは別の置き場所が要ります。合議先が入力する項目として、意見の有無と中身を申請書に持たせる形です。決裁者が稟議を開いたときに、申請内容と同じ画面で目に入る位置に置きます。承認の履歴を開かないと見えない場所では、コメント欄と変わりません。
稟議の前に審査を出す形は、懸念が稟議の本文に最初から載る点で確実です。そのかわり、申請者が2つの申請を出す順番を守る必要があります。どちらにするかは、契約の件数と、法務が審査に使える時間で決めます。
1つの部門が2つの役割を持つこともあります。法務も、取引先の確認で問題が見つかれば止める側に回ります。その場合は、承認ボタンで止める力を残したまま、意見の項目を足します。部門の役割を1つに決めきらず、指摘の種類ごとに出口を用意しておくということです。
知らせておけば足りる部門を承認の段に入れておくと、その部門が開くまで稟議が進まない作りもあります。知っておくための段が承認になっている状態は、承認の形骸化は段を減らす前に役割で見分けるでも型の1つとして扱いました。
取り返せないのは、どこですか
懸念を知らないまま決裁し、契約を結んでしまった場合です。往復の日数や承認のやり直しは、経路と項目を組み直せば、これから先の分は減らせます。
標準規約のサービスでは、契約期間中に上限だけを変えることはまず期待できません。通し例のツールで、導入から1年後に障害が起き、顧客データの一部が失われたとします。損害の補償を求めると、規約の上限が効いてきます。3年契約なら、残りの2年もこの上限のまま使い続けることになります。
社内では、その上限を知ったうえで決裁したのかが問われます。差し戻しのコメントや承認のコメントにも、法務の指摘は残ります。ただし、それは法務が書いたという記録で、決裁者の目に入ったかまでは示しません。意見を項目として決裁者の画面に出しておけば、決裁の時点で提示されていたことまで残せます。
弱点 | 対策 | 取り返せるか |
|---|---|---|
差し戻しの往復で日数がかかる | 条件を申請画面に載せる | 設定で減らせる |
再申請で合議先が承認をやり直す | 承認の引き継ぎ設定 | 設定で減らせる |
懸念が承認のコメントに埋もれる | 合議意見の項目化 | 設定で減らせる |
懸念を知らないまま決裁し、契約を結ぶ | 懸念の出口を、経路を組む時点で決めておく | 契約期間中はまず変わらない |
合議先の部門と話すときも、最初に決めるのは最後の行です。
経路を組み直す前に、何を確かめますか
聞く相手は3つに分かれます。
規程を持つ部門に確かめること
- 合議先が異議を持ったとき、決裁を止めるのか、異議を書き添えて回すのか。規程にどう書かれているか
- 決裁権限基準表の合議の印が付いた行のうち、合議先の同意が決裁の条件になっている行はどれか
合議先の部門に確かめること
- これまでの差し戻しのうち、申請者が直せたものと直せなかったものはどれか
- 通せないと判断する条件は何か。申請画面で先に確かめられる形にできるか
- 決裁者に知っておいてほしい懸念を、今はどこに書いているか。稟議の前に審査として出せるか
検討しているワークフロー製品に確かめること
- 並列の段で1人が差し戻したとき、承認を済ませた人の承認は再申請で引き継がれるか
- 合議先が入力する項目を段ごとに持たせ、決裁者の画面に表示できるか
- 確認だけの段を並列の中に置いたとき、全員の確認を待つか
通し例の法務に5を聞くと、規約の懸念は今、差し戻して本文に書き足してもらう形で伝えていると分かります。そこから、意見の項目を置くか、審査を前に出すかの相談が始まります。
規程の記号の読み方は、決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれるでも扱いました。
なお、合議先の指摘がどの種類に当たるかは、その部門にしか判断できません。どの種類にどの出口が合うかは設計として整理できますが、法務の懸念を止める側に数えるか渡す側に数えるかは、法務と規程を持つ部門が決めることになります。
まとめ
- 並列承認とは、同じ段に複数の承認者を置き、多くの場合は全員の承認がそろって次へ進める組み方
- 合議を承認の段に置き換えると異議を書き添えて回す道が消え、並列にすると1人の差し戻しで全員の承認が巻き戻る
- 合議先の指摘は、申請者が直せる不備、満たさなければ通せない条件、決裁者に判断してほしい懸念の3つに分かれる
- 申請者に直させる差し戻しが合うのは不備だけ。通せない条件は却下か差し戻しで止め、懸念は止めずに決裁者まで運ぶ
- 懸念を差し戻しで運ぶと往復が残り、承認のコメントで運ぶと埋もれる
- 懸念の出口は、合議意見の項目を決裁者の画面に出すか、審査を稟議の前に出すか
- 往復は設定で減らせる。懸念を知らないまま結んだ契約の条件は、契約期間中はまず変わらない
よくある質問
並列承認を1人の承認で先へ進める設定は、使えますか
同じ観点で見る担当者が複数いて、誰か1人が見れば足りる段には合います。経理部の担当者3人のうち誰かが見る、という置き方です。情シス・法務・経理のように観点の違う部門を並べた合議では、1人の承認で進めると、ほかの部門が見ないまま決裁に届くことがあります。合議の段には向かないことが多い設定です。
合議と回覧は、どう使い分けますか
決裁の前に異議を出す機会が要るかどうかで分かれます。異議によって決裁の中身が変わりうるなら合議、決まったことを知っておけば足りるなら回覧です。合議そのものの位置づけは、合議とは?意味・課題・メリットからワークフローでの解決策まで徹底解説で扱っています。
合議先が多くて稟議が遅い場合は、直列に戻すべきですか
待ち時間が長いなら並列のまま、承認のやり直しが多いなら出口を作るほうが効きます。直列に戻すと待ち時間は合議先の数だけ足し算になり、懸念の出口が無いことも変わりません。どちらが多いかは、差し戻しの履歴を合議先ごとに見ると見当がつきます。