自己承認をどこまで残すか。承認者が自分になる申請
自己承認は、どこまで禁止すればいいのか
ワークフローの経路を設定していると、自己承認になる申請が必ず出てきます。申請者の所属長を承認者に置いた経路で、その所属長が自分で申請する形です。
決裁権限規程には「申請者以外の者が承認する」と書いてあります。書いてあるのに、経路の設定ではそうなりません。ただし、禁止しきると止まる書式が出ます。経路の設定だけでは決まらない部分が残るためです。
起きる理由ははっきりしています。経路は役職と所属で組みますが、申請者も役職と所属を持っているからです。部門の人数が少ないほど、両方が同じ人に当たります。どちらの設定が間違っているわけでもありません。
最初に出てくる手は、申請者と承認者が同じ場合に承認させない設定を入れることです。多くの製品が持っている機能で、これで片づく場面もあります。ただし、押せる人がそもそもいない申請には効きません。禁止したところで、承認者が現れるわけではないからです。
本記事では、自己承認が生まれる場面を分けて、どこに線を引くかを並べます。禁止するかしないかを決める前に、どこまでが経路の問題で、どこからが規程の問題かを分けるための材料として使ってください。
自己承認は、どういう場面で生まれますか
分かれ目は役職の上下ではありません。決裁権限規程の中に、本人以外の決裁権者が残っているかどうかです。残っていれば経路の組み替えで解けますが、残っていなければ規程の外側に出ることになります。
自己承認とは、申請した本人が、その申請の承認ステップの承認者にもなっている状態のことです。押せる人が他にいるかどうかは、この言葉の中には入っていません。
本記事では、次の1件を通し例として使います。従業員600名の卸売業で、情報システム部の部長が自部署のセキュリティソフトの更新を申請した1件。年額220万円で、経路は「申請者の所属長 → 管理本部長 → 社長」の3段です。1段目の「申請者の所属長」が、この1件では申請者本人に重なります。
部門長が申請した場合、上位に決裁権者がいます。通し例がこれで、部長の上には管理本部長がいる。1段目を飛ばしても、2段目で見る人がいます。経路の分岐で解ける範囲です。
役員が申請した場合、上位に決裁権者はいませんが、同格の決裁権者がいます。常務の申請を専務が見る形が取れるので、決裁ラインを組み替えれば解けます。上ではなく横に動かす、という発想です。
社長が申請した場合、規程の中に押せる人がいません。横に同格がおらず、下は全員が部下です。ここだけは、経路をどう組んでも規程の中では解けません。監査役や取締役会という、決裁権限規程の外側の仕組みで見る話になります。
規程の中に押せる人が1人でも残っていれば、経路の問題として扱えます。
自分の承認ステップは、どう扱えばよいですか
取れる手は4つあります。分かれ目は、スキップした記録が履歴に残るかどうかではなく、規程に繰上げの一文があるかどうかです。
役員と社長の申請は上位に決裁権者がいないため、ここでは部門長の申請に絞ります。
やり方 | できること | 引き受けるもの |
|---|---|---|
本人に押させる | 承認の記録が残り、履歴の形がそろう | 牽制の効いていない承認が、承認として記録に残る |
自動でスキップする | 手間が消える。二度手間への不満が出ない | 段が消えたことが画面から見えるかは製品による |
1段上から始める経路に分ける | 規程に繰上げの条項があれば、規程どおりに回せる | 上位者に申請が集まる。その人が不在だと止まる |
起案者を部下の名義にする | 経路を1行も触らずに自己承認が消える | 判断した人と名義が分かれ、履歴から実質の起案者が読めなくなる |
4つ目は、現場でよく取られる手です。部長が自分で出す代わりに、担当者の名義で起案してもらう。設定は1行も触りません。代わりに、判断した人と名義が分かれます。監査でその稟議を実際に起案したのは誰かと問われたときに、履歴から答えられません。押した人の記録は残りますが、誰が決めたかは残らないためです。
3つ目にも前提があります。規程が「情報システム部の案件は部長決裁」と定めているなら、管理本部長が決裁した時点で、その1件は規程どおりではありません。食い違いが出ないのは、規程の側に「申請者が当該案件の決裁権者に該当する場合は、直近上位者が決裁する」という繰上げの一文が置かれているときだけです。
経路を分岐させる前に、規程にその一文があるかを見る。無ければ、経路を直す作業ではなく規程を直す作業です。ここを飛ばすと、設定は整ったのに監査で突き合わせられなくなります。
4つのうち2つは、規程の文言を見ないと選べません。1段上から始めるには繰上げの一文が要り、名義を付け替えるには起案者を誰と定めているかの確認が要ります。残る2つは設定だけで動かせますが、動かせるぶん規程との距離が開きます。
なお、決裁権者が不在のときの代決と後閲は、ここまでとは別の論点です。不在時に誰へ回すかは代理承認の設定は、本人だけに持たせて足りるかで整理しています。
自己承認の弱点のうち、後から直せないのはどれですか
スキップが画面から見えないことは直せますが、承認の中身は直せません。
スキップが画面から見えないことは、直せる側に入ります。履歴の表示や承認ログの出し方で補えるからです。何が見えるかは製品によって違うので、確かめれば済みます。
直せないのは、承認の中身のほうです。押した記録が残ることと、誰かが判断したことは別です。自分で押した1件は、履歴の上では承認済みになる。本当に第三者の目が入ったかどうかは、履歴からは読み取れません。
年額220万円の更新について誰かが実際に内容を見たのか、という問いは、決裁が下りて発注まで進んだあとに出てくることがあります。決裁の取り消しはできても、発注は戻りません。
決裁ラインの上に誰もいない申請は、どう通しますか
足せるのは3つです。決裁ラインの外へ回す、決裁ラインの人数を増やす、決裁と確認の時間をずらす。役員の申請はこの3つで規程の中に収まり、社長の申請だけは収まりません。
社長が申請者になる1件は、横に同格がおらず、回付先の管理部門も部下にあたります。ここは牽制の設計では手が届きません。監査役や取締役会の側で見る領域です。以下は、役員の申請に対して取れる手として読んでください。
決裁ラインの外へ回すのが、稟議実務でいう合議です。経理や法務に回付して、同意や意見を得る。決裁の権限を持たせるわけではありませんが、確認した記録は残ります。合議そのものの位置づけは合議とは?意味・課題・メリットからワークフローでの解決策まで徹底解説で扱っています。
決裁ラインの人数を増やすのは、複数の決裁者の全員承認を条件にする形です。同格の役員を決裁者として経路に置くのも、委員会や取締役会への付議も、これに入ります。通し例の企業で、同じ更新を管理本部長が申請したとします。1段目も2段目も本人になり、残るのは社長だけ。社長1人の決裁で通さず、常勤の役員をもう1名加えて2名の承認を条件にする、といった形です。
決裁と確認の時間をずらすのは、決裁を先に下ろし、事後に承認を取る形です。緊急案件を、次の取締役会に決議事項として付議して追認を得る。報告事項として載せるだけでは追認になりません。決議を経ていない以上、その1件について何も決まっていないためです。
足す手 | 何が担保されるか | 引き受けるもの |
|---|---|---|
決裁ラインの外へ回す(合議) | 決裁ラインの外の目が入る | 決裁権限のない人が経路に入る。位置づけを規程に書く必要が出る |
決裁ラインの人数を増やす | 1人では通らなくなる | 決裁までの日数が伸びる。全員が押すまで止まる |
決裁と確認の時間をずらす | 決裁が止まらず、事後に承認の記録が残る | 執行済みの案件は覆せない。緊急の定義を規程に書かないと常用される |
3つ目を入れるなら、緊急とは何を指すかに加えて、事後の付議をいつまでに行うかも規程に書いておくことになります。期限を書かないと、追認を待つ案件が積み上がります。
自己承認は、どこまで残してよいですか
全部を禁止すると回らず、全部を許すと規程と食い違います。線は、金額か種別か部門のどれかで引くことになります。
金額で引くなら、一定額を下回る申請は自己承認を許す。日用品や少額の経費が対象です。分割して線の下をくぐる抜け方は、規程の文言で塞げます。同一目的・同一取引先の案件を分割して起案しない、継続契約は年額で判定する。この2つを書いておけば、通し例の年額220万円を月額18万円台の申請として出すやり方も塞がります。塞ぐのは経路ではなく規程の文言のほうです。
種別で引くなら、支出を伴う申請だけを禁止し、勤怠や届出は許す。運用としては分かりやすい形です。書式の選び違いは、受付側の差し戻しで直せます。金額の欄で経路を分岐させれば、書式の選択そのものに依存しない形にもできます。
どちらも塞げる側の弱点です。塞げないのは、別のところにあります。
起案の時点では、支出を伴うかどうかが決まっていない申請があります。枠だけ先に取り、金額も取引先もあとから決める形の稟議です。金額で線を引いても判定できず、種別で線を引いても支出の有無が確定していない。線の内側か外側かが、起案の時点では決まりません。規程の文言でも経路の設定でも塞げず、どちらに寄せるかを決めるしかない領域です。
部門で引くなら、人数の少ない部門だけを例外として認める。実態には合います。引き受けるのは、例外部門の一覧を組織変更のたびに見直す手間です。1人増えた部門を例外から外す判断を、誰がいつやるかまで決めておくことになります。
規程の1行がシステムのどこに落ちるかは、決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれるで整理しました。線を引く作業は、その延長にあります。
3つのうちどれを選ぶかまでは、設定と規程の突き合わせで絞れます。絞れないのは、その先です。5人の部門で部長と課長を分けて、申請と承認を別の人に割り当てる。形の上では牽制が立ちます。ただし、その2人が同じ島で毎日顔を合わせているなら、段を足したことで牽制が実際に働くかどうかは別の問題です。段を足せば牽制が働く、とは言い切れません。
経路の設定を見れば、次の3つは数えられます。
- 申請者と承認者が同じ人になりうる書式はどれか
- そのうち、規程の中に本人以外の決裁権者が残っているものはいくつか
- スキップした記録が履歴に残るか
ここまでは設定画面で確かめられます。一方、その部門で牽制が実際に効いているかどうかは、そこで働いている人にしか分かりません。
まとめ
自己承認は、設定の不備ではなく、経路と組織を別々に組んだ結果として出てくるものです。
- 分かれ目は役職の高さではなく、規程の中に本人以外の決裁権者が残っているかどうか
- 部門長の申請は経路の分岐で解け、役員の申請は決裁ラインの組み替えで解ける。社長の申請だけは規程の外側に出る
- 部門長の申請に取れる手は、本人に押させる・自動でスキップする・1段上から始める・起案者を部下の名義にするの4つ。このうち2つは規程の文言を見ないと選べない
- 1段上から始めるには、規程に繰上げの一文が要る。無ければ経路ではなく規程を直す作業になる
- 役員の申請に足せるのは、決裁ラインの外へ回す・人数を増やす・時間をずらすの3つ。時間をずらす形だけは、確認が執行のあとに来る
- 線の引き方は金額・種別・部門。金額と種別の抜け道は規程と設定で塞げるが、支出の有無が起案時点で決まらない申請だけは塞げない
経路を組み替える前に、規程に繰上げの一文があるかを見る。そこから順番が決まります。
よくある質問
自己承認を禁止する設定を入れれば、規程どおりになりますか
規程の中に本人以外の決裁権者が残っている申請は、これで規程どおりになります。残っていない申請では、禁止しても承認者が現れないため、その書式だけが止まります。禁止の設定を入れる前に、どの書式が後者に当たるかを分けておくと、止まる場所を先に把握できます。
金額も取引先も決まっていない稟議は、線のどちら側に置きますか
枠だけ先に取る稟議は、金額でも種別でも判定できないため、どちらかに寄せる判断が要ります。自己承認を許す側に置くなら、金額が確定した時点で別の申請を出す運用とセットにする形が考えられます。禁止する側に置くなら、枠取りの段階から上位者の承認が要ることになり、件数によっては上位者の負荷が上がります。どちらに寄せるかは、枠取りの稟議が年に何件出るかで分かれます。
決裁後に自己承認だったと分かった場合は、どうしますか
決裁そのものは成立しているため、記録を消すことはできません。取れる手は、該当の1件を特定して経緯を残すことと、同じ経路で今後起きないように設定か規程を直すことの2つです。監査で問われるのは、起きた事実よりも、把握して手を打っているかどうかであることが多くあります。件数と対象書式を一覧にしておくと、説明の材料になります。