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ワークフローのAI承認、任せられる段はどこか

ワークフローのAI承認は、どの段なら任せられるのか

ワークフローのAI承認で経費精算の一段を任せられないか、という検討が情シスに降りてくる。経路図を開くと、課長、経理担当、経理課長の段が並んでいます。

経理の確認は毎回同じことを見ているのだからAIでよい、という見立てが経営会議から出る一方で、経理に持っていくと別の反応が返ってくる。この食い違いは、どちらが外れているという話ではありません。承認の段には、毎回同じ基準を当てはめているだけの段と、画面の外の事情を知っている人にしかできない段が混ざっています。経路図の上では、どちらも同じ四角で描かれています。

AIの精度を確かめるところから始めると、この区別がつかないまま話が進みます。精度が十分でも任せられない段があり、誤りが出ても困らない段もあるためです。

本記事では、AIが座れない段を除いたうえで、2つの問いを当てて見分ける手順を整理します。任せられない段にAIをどう置くかも、あわせて扱います。経理と案をすり合わせるときの手がかりとして使ってください。

AI承認とは、何をする仕組みですか

承認経路の一段にAIを置き、申請内容の判定から承認・差し戻し・却下までを人の操作なしに行う仕組みです。承認者の画面に判定結果を表示するだけの使い方や、申請を出す前にAIが内容を確かめる使い方とは、記録に残るものが違います。

違いが出るのは、承認履歴の名義です。AIが段に座れば、その段の承認者欄にはAIが残ります。画面に結果を表示するだけなら、承認者欄に残るのは押した人です。

本記事では、次の1件を通し例として使います。営業部の担当者が出した交際費の精算で、取引先2名と、申請者を含む同じ課の担当者2名の会食、金額は4万8,000円。この企業では5万円未満の会食は事前申請が要らず、事後の精算だけで済む決まりになっています。

経路は次のとおりです。

  1. 所属課長:会食の目的と相手先が業務に見合っているか
  2. 経理担当:領収書と入力内容の一致、1人あたりの金額、勘定科目
  3. 経理課長:金額の条件を超えた精算だけを、申請ごとに承認する

4万8,000円の精算は3段目の条件に届かないため、経理担当の段が最終の承認になります。承認された精算は、次の支払日の振込データにまとめて載ります。振込データにも承認はありますが、見ているのは合計と件数で、申請1件ずつの中身ではありません。

経営会議で名前が挙がったのは、2段目の経理担当です。

AIに任せられる段は、どう見分けますか

まず、AIがそもそも座れない段を除きます。残った段に2つの問いを当てます。判断基準が申請画面と規程の中で閉じているか。誤りの種類ごとに、取り返せなくなる時点より前に、その誤りを見る人の段があるか。1つ目が欠ける段はAIを承認者の横か申請前に置き、2つ目が欠ける段は経路の側を見直します。

承認者が入力する段と、規程で役職が決まっている段

座れない段は2種類あります。

1つは、承認者が項目を入力する段です。経理担当が承認のときに税区分や部門コードを入力する運用なら、AIは承認できても、その入力までは引き受けられないことがあります。入力が必須の項目を残したまま段だけをAIに替えると、申請がその段で止まります。

もう1つは、決裁権限規程で承認者の役職が定められている段です。規程が定めているのは役職であり、役職を持たないAIをその段に置くことは、規程の側から見ると承認者の差し替えになります。決裁の段にAIを入れたいなら、経路の設定より先に規程の改定が要ります。規程の1行がワークフローのどこに落ちるかは、決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれるで整理しています。

通し例の経理担当の段は、どちらにも当たりません。入力は申請者が済ませていて、規程に役職の定めもない段です。

判断基準が申請画面と規程の中で閉じているか

経理担当の段で見ているものは、おおむね画面の中にあります。領収書の日付と金額が入力と合っているか。社外の人を含む飲食で、1人あたりが税務上の基準額を超え、交際費として扱う精算か。社内の経費規程が定める1人あたりの上限に収まっているか。

4万8,000円を4名で割ると1人あたり1万2,000円です。税込と税抜のどちらで判定するかは経理方式の決めごとで、これも規程の中にあります。今回はどちらで見ても基準額を超えます。

どれも、添付された領収書と入力欄と社内の経費規程を突き合わせれば判定できます。毎回同じ基準を当てはめている段は、AIが座っても判断の中身が変わりません。

ただし、参加した人数と相手先は申請者の入力に頼っています。領収書から人数まで確かめられることは多くありません。ここは人が見ても同じ限界で、AIに替えたから弱くなる部分ではありません。

課長の段は違います。この取引先とは来月に大きな見積の提出を控えていて、いま会食を入れる理由がある。課長が承認の前に考えているのは、こうした画面の外の事情です。申請の目的欄に意見交換と書かれていても、その一文の重みは課長の頭の中にしかありません。

取り返せなくなる時点より前に、人の段があるか

AIが付けた承認を、AIが自分で取り消す作りは多くありません。誤りに気づけるのは、後ろにいる人です。

取り返せなくなる時点は、誤りの種類で違います。

誤りの種類

例

取り返せなくなる時点

額や支出そのものの誤り

領収書と入力の金額が食い違う、同じ会食が二重に申請される

支払い。過ぎると本人への返金のお願いになる

科目や税区分の誤り

交際費とすべき飲食が別の科目で計上される

月次の締めや決算。支払い後でも振替の仕訳で直せる

通し例で、領収書は4万3,000円なのに入力が4万8,000円だったとします。経理担当の段をAIに任せ、AIがこれを通すと、経理担当の段が最終の承認です。後ろに申請を1件ずつ見る段がないまま、次の支払日に4万8,000円が振り込まれます。

科目の取り違えなら、線は月次の締めや決算まで下がります。ただし、そこで拾えるかは後ろの確認の粒度次第です。月次の締めで科目別の残高を眺めるだけなら、4万8,000円の1件はまず浮きません。会議費や福利厚生費の明細から、1人あたりの金額が高い飲食を抜き出して見る確認があれば拾えます。どちらの場合も、決算で交際費の損金不算入額を計算するときに、振り分けを見直す機会は残ります。

同じ経理担当の段でも、額の誤りについては後ろに誰もいません。科目の誤りについては、後ろの確認がその粒度で見ているかどうかで答えが変わります。段を単独で見ず、誤りの種類ごとに後ろの並びと見方を確かめる必要があります。

額の誤りを拾う人がいないと分かったら、手は経路の側にあります。経理課長の段の金額の条件を見直す。AIの段の後ろに、金額の突合だけを見る人の段を残す。どちらを選ぶかで、AIに任せて減る手間の量が変わります。

後ろに人を残しても、AIが承認した申請だからと見方が緩むことがあります。承認者の横にAIを置いたときに起きる当てにし合いと同じ構造が、後ろの段とAIのあいだでも起きます。

逆向きの誤りもあります。AIが正しい申請を差し戻した場合は、申請者の目に触れるので、その場で問い合わせて取り返せます。却下は経路の先へ進まないため、申請者が気づいて出し直すまで、誰の目にも触れません。

任せられない段には、AIをどこに置けますか

段に座らせる以外に、置き場所は2つあります。申請を出す前の申請者の画面と、承認者の画面の横です。どちらも判断するのは人のままで、承認履歴の名義も人に残ります。そのかわり、置き場所ごとに見落としやすい点が違います。

置き場所

判断するのは

承認履歴の名義

見落としやすい点

申請を出す前

申請者

申請者

警告を受けたまま出された申請だと、承認者に分かるか

段に座らせる

AI

AI

誤って通した承認は、後ろの人が拾うまで戻らない

承認者の横

承認者

承認者

何も表示されないことを、問題なしと読んでしまう

申請を出す前に置く

申請者が入力を終えたところで、AIが領収書と入力欄を突き合わせます。通し例なら、領収書の金額と入力が合っていない、と出す前に知らせます。

申請者がその場で直せば、差し戻しの往復を減らせます。経理担当の段で見ていたことの一部が、申請者の側に移ります。

見落としやすいのは、警告を受けた申請者がそのまま出したときです。急ぎの精算なら、事情を分かったうえで出すこともあります。その事実が承認者の画面に出ない作りだと、課長も経理も、警告のなかった申請と同じものとして受け取ります。

承認者の画面の横に置く

承認者が申請を開いたとき、AIの判定を横に並べます。過去の似た精算と比べて金額が高い、同じ取引先との会食が今月3回目、といった材料を示します。

課長の段のように、画面の外の事情で判断する段にはこの置き方が合います。判断は課長のまま、課長が見落としやすい材料だけを足せます。承認者が判断に使う材料が申請画面に載っていない問題は、稟議の差し戻しが減らないのは、承認する側の判断基準が申請画面に載っていないからでも扱いました。

判断が人に残り記録も変わらないため、この置き方がいちばん無難に見えます。ただし、注意が要るのは判定の印が付かない申請のほうです。印の付く申請に時間を使う分、印の付かない申請には、AIが見てくれたという安心が乗ります。承認者が手を抜いたわけではなく、前後の段が互いを当てにする構造が、人とAIのあいだで起きます。前後の段の当てにし合いは、承認の形骸化は段を減らす前に役割で見分けるで4つの型の1つとして挙げたものです。

任せた段の記録には、何を残しますか

AIが座った段では、判定の理由と、判定に使った規程・判定条件・モデルの版を、承認履歴と一緒に残します。AIの判定は後から同じ条件で再現できるとは限らず、監査で説明の材料になるのは、その時点で残した記録だけです。

通し例の交際費精算で、半年後に社内の経費規程が改定され、交際費の1人あたりの上限が変わったとします。その後の監査で、改定前に通った精算を確かめることになりました。

承認履歴にAIの名義と日時が残っていても、それだけでは足りません。問われるのは、AIが当時どの版の経費規程と、どの判定条件で通したかです。

AIの判定は、規程の版だけで決まるものでもありません。判定の指示やしきい値、使っているモデルの版でも変わり、同じ入力に同じ結果が返るとも限りません。

判定の精度は運用しながら直せますが、経路の並びと記録の残し方は、任せる前に決めておかないと過ぎた期間の分を後から作れません。

弱点

対策

取り返せるか

判定の誤りが多い

判定の条件を見直す。誤りの多い申請の種類を段から外す

取り返せる

警告を受けた申請だと承認者に分からない

表示の設定を見直す。申請者に理由の入力を求める

取り返せる

額の誤りが、人の段を経ずに支払われる

支払いの前に、金額を突き合わせる人の段を残す

支払った後は返金のお願いになる

判定の理由と、規程・判定条件・モデルの版が残っていない

判定のたびに記録する

過ぎた期間の分は作れない

任せる段を決める前に、誰に何を確かめますか

経理と規程を持つ部門には、段で見ている中身と後ろの段の並びを確かめます。製品の側には、AIの段の作りと記録の残り方を確かめます。

経理・規程を持つ部門に確かめること

  1. その段で、承認の前に何を見ているか。画面の外の情報を見ていることはあるか
  2. その段の承認者は、規程で役職として定められているか。慣行で入っているだけか
  3. その段の後ろにいる人は、1件ずつ何を見ているか。額の誤りと科目の誤りを、それぞれどこで拾っているか
  4. 規程が改定されたとき、改定前に通った申請をどの版で説明することになっているか

検討しているワークフロー製品に確かめること

  1. AIの段に、承認者が入力する必須項目がある書式を組み合わせたらどうなるか
  2. AIが付けた承認を、後から取り消せるか。取り消せないなら、後ろの段の差し戻しで戻るか
  3. 申請前のチェックで警告を受けたまま出された申請だと、承認者の画面に表示されるか
  4. AIの判定の理由と、判定に使った規程・判定条件・モデルの版が、承認履歴と一緒に残るか

通し例の経理担当の段なら、1と2はすぐ答えが出ます。見ているのは画面の中のことで、規程に役職の定めはありません。3を聞くと、額の誤りを1件ずつ見る人が後ろにいないことが分かります。経理課長の段の金額の条件を見直すところから、話を始めることになります。

まとめ

ワークフローのAI承認で任せられる段が経路図から読めないのは、同じ四角に描かれた段のなかに、基準を当てはめているだけの段と、画面の外の事情で判断している段が混ざっているためです。

  • AI承認とは、承認経路の一段にAIを置き、判定から承認・差し戻し・却下までを人の操作なしに行う仕組み
  • 見分け方は、承認者が入力する段と規程で役職が定められた段を除いたうえで、2つの問いを当てる
  • 1つ目の問いは、判断基準が申請画面と規程の中で閉じているか。欠ける段では、AIを承認者の横か申請前に置く
  • 2つ目の問いは、誤りの種類ごとに、取り返せなくなる時点より前に人の段があるか。額の誤りは支払いが線、科目の誤りは締めや決算が線で、後ろの確認の粒度まで見る。欠けるなら経路の側を見直す
  • 横や申請前に置く場合も、警告の見え方と、人がAIを当てにする構造には注意が要る
  • 判定の精度は後から直せる。判定の理由と規程・判定条件・モデルの版の記録は、任せる前に決めておく

任せる段を1つ選んだら、誤りの種類ごとに、その段の後ろを経路図の上で指でたどってみる。指が止まる場所が、最初に経理と話す論点になります。

よくある質問

AIが却下した申請は、誰が見直すのですか

却下で申請が終わる作りだと、申請者が出し直すまで誰の目にも触れません。差し戻しと違い、却下は経路の先へ進まないためです。AIの段では却下を使わず差し戻しまでにとどめる、却下した申請を一覧で人が見る、のどちらかで扱いが分かれます。

AIの段を入れると、内部統制の評価に影響しますか

その段が、内部統制の評価で統制として扱われているかで分かれます。統制として扱われている段をAIに替えるなら、自動化された統制として評価の手続きが変わります。年度の途中で替える前に、内部統制の担当と話しておくことになります。あわせて、判定の条件やモデルを変えたことを、経路の変更と同じく変更の記録として残せるかも確かめておく論点です。

稟議にもAI承認は使えますか

稟議の段は、決裁権限規程で承認者の役職が定められていることが多く、そのままではAIを座らせにくい段です。使いやすいのは、申請前に添付書類の不足や金額の書き方を確かめる使い方と、承認者の横に過去の類似稟議を並べる使い方です。法務や経理の形式確認のように、基準が規程の中で閉じている段が稟議の経路にあれば、そこは経費精算と同じ問いで見分けられます。

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