ワークフローの兼務で承認者が重なる。どこまでまとめてよいか
兼務で承認者が重なったとき、段はまとめてよいのか
ワークフローの経路を開くと、課長の段と部長の段に同じ名前が並んでいる。課長が異動して後任が決まらず、部長が兼務することになったためです。
設定としては正しく動いています。役職から承認者を引く作りなら、兼務している人は両方の段に入ります。ただし申請する側から見ると、同じ人の承認を2回待つ形になります。手間としては無駄に見えます。
一方で、段を1つ減らすという判断を情シスの側で下してよいのかは、また別の話です。多くの製品には、同じ承認者が続いたときに1回にまとめる設定があります。便利な設定ですが、まとめた結果その申請に何が残らなくなるのかまでは、設定画面に書かれていません。
本記事では、承認者が重なる形を2つに分けて、まとめてよい段とそうでない段の分かれ目を並べます。兼務の発令を受け取ったときに、どこを確認するかの材料として使ってください。
兼務で経路に同じ人が2回出るのは、どんなときですか
重なり方は2つです。兼務している人が経路の別々の段に入る形と、申請者自身が経路の中に承認者として現れる形。どちらも設定の誤りではなく、役職から承認者を引く作りでは自然に起きます。
承認者の重複とは、1つの申請の経路の中に、同じ人が2回以上承認者として現れる状態のことです。本記事で扱うのは、上位の職位が下位の職位を兼ねる縦の兼務に限ります。課長が別の課の課長を兼ねる横の兼務は、同じ経路に2回出ないので別の論点です。
本記事では、次の状況を通し例として使います。900名の企業で、4月の異動により営業第二課の課長が本社に移り、後任が決まらないまま営業部長が課長を兼務することになりました。
この企業の購買稟議は、決裁権限規程の金額区分に合わせて経路が分岐します。30万円未満は課長まで、30万円以上300万円未満は課長から部長まで、300万円以上は課長から本部長まで。規程に書かれた決裁者が、経路の最後の段に来る作りです。
兼務が始まると、営業第二課から出る申請の課長の段と部長の段に、同じ名前が並びます。40万円の申請なら、経路は課長と部長の2段で、どちらも営業部長です。400万円なら課長・部長・本部長の3段で、最初の2段が同じ人になります。
これが1つ目の形です。 経路の定義は何も変えていません。人事マスタで営業部長に営業第二課長を兼務として登録した結果、役職から引かれる承認者が同じ人になっただけです。
2つ目は、営業部長自身が申請したときに出てきます。 営業部長が自分で購買稟議を出すと、課長の段も部長の段も自分。自分が出した申請を、自分が承認します。
重なり方 | 起きる場面 | 気になるところ |
|---|---|---|
兼務による重複 | 空席のポストを上位の人が兼務している | 同じ人を2回待つ |
申請者自身の登場 | 兼務している本人が申請する | 第三者が誰も見ていない |
見た目はどちらも同じ名前が並んでいる状態ですが、手前は承認の手間の話で、後ろは誰も第三者として見ていない状態の話です。
経路の定義に承認者の氏名を直接書いている企業では、この2つはどちらも起きません。兼務の発令が出るたびに、人の名前で経路を書き換えるためです。役職から引く作りに寄せるほど、組織変更のたびの書き換えは減ります。代わりに、兼務や空席のときに経路が何を返すかを、設計として先に決めておくことになります。規程の1行が設定のどこに落ちるかは、決裁権限規程の1行は、ワークフローの4か所に分かれるで整理しています。
同じ人が2回承認する段は、まとめてよいですか
まとめてよい段はあります。分かれ目は、まとめて外れる段の中に規程上の決裁者が入っているかどうかです。
ただしその手前に、自社の製品がどういう作りかを見る工程が挟まります。同じ承認者が続いたときの扱いには、段そのものを経路から外す作りと、段は残したまま自動承認として記録する作りがあるためです。
設定の名前は、スキップ、自動承認、同一承認者の省略など製品によって違います。確かめ方は、テスト用の申請を1件通して承認履歴の画面を見ることです。設定の説明文ではなく、通した後の履歴に何が並ぶかを見ます。
段が残る作りなら、承認履歴には両方の段が並びます。この先の判断が要るのは、段そのものが外れる作りのときです。
通し例の40万円の購買稟議で考えます。課長の段と部長の段をまとめると、営業部長は1回押すだけで済みます。このとき、申請の履歴に残る承認は1回です。もう一方の段については、承認した記録も、いつ通ったかの時刻も残りません。
まとめないままにしておくと、営業部長は同じ画面で2回押します。手間は増えますが、履歴には課長としての承認と部長としての承認が別々に残ります。
同じ人が押しているので中身は変わりません。変わるのは、後からその1件を見たときに何が読み取れるかです。
- 後から対策できるもの:同じ人が2回押す手間。まとめる設定を入れれば軽くなります。兼務が解ければ元に戻ります
- 後から作れないもの:まとめた状態で通った申請の、外れた段の承認記録。設定を戻しても、過ぎた分の記録が生えてくるわけではありません
翌年の監査で営業第二課の購買稟議がサンプルに抜かれたとき、出てくるのは承認1件です。もう一方の確認がなかったのではなく、記録のほうが残っていません。
まとめたとき、どちらの段として記録されますか
ここも製品で分かれます。先頭の段で承認して後続を外す作りなら、記録は課長の承認として残ります。後続の段に寄せる作りなら、部長の承認として残ります。
40万円の申請で、規程上の決裁者は部長です。先頭寄せの作りだと、履歴に残るのは課長の承認で、規程上の決裁者が押した記録のほうが消えます。
押した人は変わりません。それでも、規程の金額区分と履歴の役職が対応しません。
どちらに寄る作りかも、テスト申請1件で分かります。まとめる設定を入れる前に見ておく2つ目です。
まとめてよい段と残す段は、どこで分かれますか
先に見るのは決裁権限規程のほうです。上位者が下位の職位を兼ねるときの扱いが、規程に条項として置かれていることがあります。
「上位の職位が下位の職位を兼務する場合、下位の職位の決裁は上位の職位の決裁をもって代える」といった一文です。これがあれば、まとめてよいかどうかは規程がすでに答えています。情シスの側で判断する話ではなくなります。
条項が無い場合に、段を1つずつ見ていく作業が来ます。見る点は、まとめて外れる段の中に、規程上の決裁者が入っているかどうかです。
40万円の申請では、経路は課長と部長の2段。規程上の決裁者は部長で、重なっている2段の中に入っています。まとめると、決裁者の段が外れる可能性が出てきます。
400万円の申請では、経路は課長・部長・本部長の3段。重なっているのは最初の2段で、規程上の決裁者である本部長は重なりの外にいます。まとめても、本部長の決裁は履歴に残ります。
同じ兼務、同じ経路でも、金額によってまとめてよいかどうかが入れ替わります。
状態 | まとめたときに消えるもの |
|---|---|
決裁者が重なりの中にいる(経路の最後の段まで同じ人) | 規程上の決裁者が押した記録 |
決裁者が重なりの外にいる(重なるのは手前の確認の段だけ) | 確認した人と時刻 |
2つの段が同じ観点で内容を見ているだけなら、2回押した記録の2つ目が持つ情報は多くありません。この場合は下の行に寄ります。
判断が金額で入れ替わる以上、設定をどの単位で効かせるかもここで決まります。
- 金額区分ごとに分ける:理屈のうえでは正解です。決裁者が重なりの外にいる区分だけまとめれば、記録は失われません。ただし分岐の数だけ設定が増えるため、経路の本数が多い企業では管理が重くなります
- 書式ごとに入れる:落としどころになりやすい単位です。ただし書式の中に決裁者が重なりに入る金額区分が1つでもあれば、その書式は対象から外すことになります。通し例の企業なら購買稟議は外し、経費精算はまとめる形です
- 全体の設定として入れる:すべての書式に一律で効きます。兼務が無い部署の経路にも効くため、別の場所で重なりが出たときの扱いまで一緒に決めることになります
書式単位で入れる・入れないを決める形に落ち着きやすくなります。全体は影響が読めず、金額区分ごとは分岐の数だけ設定が増えるためです。
申請者と承認者が同じ人になったら、どうしますか
こちらも、先に規程を見ます。「決裁者が起案者となる場合は、直近上位者の決裁を受ける」という条項が置かれていることがあります。あれば、それに従う話です。
自己承認とは、申請した本人が、その申請の承認者として経路に現れる状態のことです。職務分掌の観点では避けたい形として扱われます。
条項が無い場合、取りうる形は3つです。
1つ目は、自分の段を外したうえで、経路に無い上位者を1段足します。 40万円の経路は課長と部長の2段で、どちらも本人。2段とも外すと承認者がいなくなるため、本部長の段を足して引き受けてもらいます。第三者が見る形は保たれますが、規程では部長で止まる金額が本部長の画面に並びます。
2つ目は、自分の段だけ外して、上位を足しません。 400万円なら本部長が残るので、見る人は変わりません。40万円だと経路が課長と部長で終わるため、誰も見ないまま通る形になり得ます。
3つ目は、その書式では申請させません。 部門の申請は課の担当者が起案し、部長は承認者として関わる。申請者の側に立たない、という運用です。
選び方 | 引き受けるもの |
|---|---|
上位を1段足す | 規程の決裁者より上の職位が、規程に無い段として増える |
自分の段だけ外す | 金額区分によっては、第三者が1人も見ない申請が出る |
申請させない | 起案する人を決めておく必要がある。担当者が不在だと止まる |
どれを選んでも、引き受けるものが残ります。金額の小さい申請が多い部署なら1つ目は現実的ではありませんし、起案できる人が課に1人しかいなければ3つ目は選びにくくなります。
不在時に権限をどう渡すかという論点は、代理承認の設定は、本人だけに持たせて足りるかで扱っています。今回の重複は、本人がいるのに経路が同じ人を2回指してくる状態なので、別の設計が要ります。
兼務が解けた日には、何が残りますか
兼務は後任が決まるまでの一時的な形です。後任の課長が着任した日に、経路は自動で正しい状態に戻ります。役職から引いている限り、設定を触る必要はありません。
戻らないのは、兼務のあいだに入れた設定のほうです。
課長と部長の段をまとめる設定を入れていた場合、後任が着任しても設定は残ります。課長と部長が別人になった以上、まとめる条件に当てはまらないので、動きとしては何も起きません。何も起きないことが、外しそびれる理由になります。
次にまた別の課で兼務が起きたとき、意図しないまま同じ挙動が働きます。書式ごとに入れていれば影響は限られますが、全体の設定なら、どの経路にも効きます。
自己承認のときの扱いを変えていた場合も同じです。部門長が申請できる書式を絞る運用にしていたなら、兼務が解けた時点で戻すのか、そのまま続けるのかを決めます。
組織変更の当日に残る作業は、ワークフローの組織変更、当日に残る作業は2つに分かれるで整理しています。兼務の解除は、そこで扱った当日作業とは別の時期に来ます。
なお、まとめる設定が製品側でどう振る舞うか、履歴に何が残るかは、仕様として確かめられる話です。一方、その段が自社の規程でどういう位置づけなのかは、規程を作った側と運用している側にしか分かりません。外から見た相場観で「この段はまとめて大丈夫」と決めると、規程と設定の対応を切ることになります。
まとめ
兼務で承認者が重なるのは、役職から承認者を引く作りでは自然に起きます。
- 重なり方は2つ。兼務している人が2つの段に入る形と、申請者自身が経路に現れる形
- まとめる設定には、段そのものを外す作りと、段を残して自動承認として記録する作りがある
- 段が残る作りなら、まとめても履歴は変わらない。判断が要るのは段が外れる作りのとき
- 段を外す作りでは、外れた段の承認記録が残らない。設定を戻しても、過ぎた分には効かない
- まとめたときにどちらの段として記録されるかも製品で分かれる。先頭寄せだと、規程上の決裁者の段が消える場合がある
- 判断の前に、決裁権限規程に兼務時の条項と起案時の条項があるかを見る
- 条項が無ければ、まとめて外れる段の中に規程上の決裁者が入っているかで分かれる。同じ経路でも金額によって入れ替わる
- 兼務が解けても、兼務のあいだに入れた設定は残る
兼務の発令を受け取ったら、まず経路のプレビューで重なりが出るかを見る。重なりが出たら、規程に条項があるかを確かめる。ここが入口です。
よくある質問
兼務の登録は、人事マスタとワークフローのどちらで持つのがよいですか
人事マスタ側に寄せて、ワークフローは同期を受ける形が扱いやすくなります。兼務の発令は人事の記録として残るものなので、辞令の日付とワークフローの設定日がずれにくくなるためです。ただし、人事マスタの兼務がワークフロー側にどう渡るかは連携の仕様で変わります。主務だけが同期される作りだと兼務先の経路に人が入らないため、連携の対象に兼務が含まれるかは先に確かめる論点です。
承認者が1人もいない段ができたときは、どうなりますか
重なりではなく欠落が起きる状態で、製品によって挙動が分かれます。申請の時点でエラーになって出せない作り、空の段を飛ばして次へ進む作り、管理者に通知が飛ぶ作りなどがあります。課長が異動してから兼務の発令が出るまでに数日空くと、その期間はこの状態です。重なりの設計を決めるときに、その手前の空席期間をどう通すかも一緒に見ておく論点です。
まとめる設定を全体に入れると、兼務が無い部署の経路にも効きますか
効きます。同じ承認者が続く状態は、兼務以外でも起きるためです。部長が部門長を兼ねる小さい本部、役員が複数の部を見ている組織、承認の段を2つ置いているが実質的に同じ人が入る書式など、条件に当てはまる経路にはすべて効きます。全体の設定として入れる場合は、兼務している部署だけでなく、同じ人が続く経路が他にどれだけあるかを一覧で見ておくところです。